さいとう・プロトップページへ 劇画講座

さいとう・プロの劇画技術を公開した、劇画家を目指す人のテキスト
「さいとう・たかをの劇画専科」(リイド社/1980年刊/絶版)初等科コース第1回・講座です。

劇画講座開講にあたり
本書では、私たちが数十年間劇画を描きつづけてきて経験的におぼえたこと、その知識や描きかたの実際を、これから初めて劇画を描いてみようと思っている人から、将来プロを志す人まで、「劇画はこうして描けば誰にでも描ける」ということを目標に、さいとう・プロのもっている劇画技術のすべてをさらけ出してまとめてあります。
まずは、劇画専科「初等科コース」第1回のスタートです。
これは約10週続きますが、さらに高度な技術をおぼえようと思われるかたは「高等科コース」「専門科コース」と続きますので、あわせてお読みいただければさいわいです。

第1回 用具について

劇画を描きたい! 劇画を描いてみたい!

 そう思ったら、さっそく始めようではありませんか。
 しかし、それには劇画を描くための用具が必要です。また用具にも初歩的なものから専門的なものまでいろいろとあって、一度にひととおり集めるとなればたいへんですが、その中には学校などで使っているものが多くありますから、あなたの技術の向上とともに、それにあわせて集めていけばいいでしょう。
 ここでは、まず「第一作」にとりかかるあなたに、これだけはほしい、と思われるものをとりあげてみました。

(1) 用紙

〈用紙を選ぶうえの注意点〉
1.
インクやスミがにじまないもの。
2.
消しゴムでこすって表面が毛羽立たないもの。(せっかくのペン描きが、
下描きといっしょに消えてしまうことがあるから)
3.
ペン先がやたらと引っかからないもの。
4.
必要以上にペン先がすべり過ぎないもの(まちがった線を描きやすい)
5.
あまり高価でないもの(劇画の場合、多量に使用するため)

  以上の注意点から長所、短所をみてみると――

イ. ケント紙

紙質が堅いため、力を入れて描く人には向いているが、ペンがすべりすぎるきらいがある。極細の線がきれいに出るため、ペン・スケッチ、さし絵など、多く描きこむ絵にはむいている。消しゴムには強い。比較的高価である。


ロ. もぞう紙

プロ劇画家がいちばん多く使っている。ほとんどのペン先とよく合い、描きやすい。多量の使用にも経済的である。純白のものが少ない。


ハ. 画用紙
絵具を使う筆描き原稿(多色刷り)に使う。紙質がやわらかく、表面がザラついているため、ペン描きでは線のアクセント(強弱)がつけやすい。その反面消しゴムに弱い。種類が多いので、特に毛羽立たない上質のものを選ぶ。




(2)ペン
  ふつうペン先といいますが、ペンにもいろいろ種類があって、それぞれ特ちょう的な線が描けます。

イ. かぶらペン
 初歩的な人に使いやすい。使いはじめは細い線しか描けないが、スリへったものと併せて用いて線の強弱をつけ、立体感を出す工夫をするとよい。

ロ. Gペン
 英字を描くペンとして知られている。一本のペンで強弱のアクセントがつけやすい。ただし、タテ線は太く、ヨコ線が細くなる特ちょうがあるため、うまく使いこなせば個性的なタッチが生まれるが、それだけにテクニックを要する。ペン軸の持ち方の角度などに工夫してみるとよい。

ハ. ファルコンペン
  線としては、かぶらペンに近いが、かぶらペンより、ややアクセントがつけやすい。背景のビルディングやその他直線的な絵に向いている。

ニ. 丸ペン
  超極細の線が描ける。ペン軸も丸ペン用のものを使う。特に小さな物を描く時や、特殊な「ぼかし効果」として細い重ね斜線を描くのに使うが、他のペンからくらべると使うことは少ない。

 以上のペンが、プロの劇画家に一番多く使われているもので、一作を一種類のペンで描き上げてしまう人もあれば、数種類のペンを場面に応じて(例えば人物はGぺン、背景はかぶらペンといったように)適宜使いわけている人などがある。
  また、同じかぶらペン、Gペン、といっても、メーカーによって硬度(堅さ)がちがうことが多いので、いろいろ使ってみて、自分のペンタッチに合ったもの、描きやすいメーカーのものをさがし出すのがよい。


ホ. その他のペン

 特別に太い線や、歯型の線など、特殊な効果を必要とする時、自分で作る。例えば、毛筆の軸をけずって作る竹ペン、マッチ棒、また使い古した万年筆など。


(3)ペン軸
  ペン先をさして使う。 劇画家にとってもっともよく使う道具であり、長時間使っていても、 指が痛くなったり、へんな「ペンだこ」 ができたりするものはさけて、自分の指の長さ、にぎりぐせに合った型、太さ、長さのものを選ぶようにしたい。

また市販のものを短く切ったりけずったりして、使いやすいものを「特製」するのもよい。


(4)エンピツ
 下描き(ラフともいいう)や、ふきだしの中のセリフ(ネームともいう)の書きこみ、またスケッチやデッサンをする時に使う。堅いシンのものはさけ「B」〜「3B」くらいのものが適当。
  最近は下描き、ネーム入れに、シャープペンシル(2B)を使っているプロ作家を多く見かける。



(5)黒インク
 下描きの上のペン描きに使う。ハヤシインク、パイロット証券用などがあるが、原稿に色をつける場合は、いったんかわけば水にとけ出さないもの(ウォーター・プルーフ)でないと使えない。



(6)墨汁
 開明、不二などがある。ペン描きや黒くぬりつぶす部分(黒ベタという)に使うが、水や手の汗に流れだすことがあるので注意する。



(7)絵ふで
  ぬりつぶし(黒ベタ)やホワイトの修正、着色、特殊な線や画面を描いたり、文字(タイトルや擬音)を描くのに、ペンにつづいて使うことは多い。太いものから中細、極細など3種ほど用意しておく。



(8)ホワイト(白絵具)
 はみ出した線、描きぞこなった部分などを消す。チューブ入りの白えのぐでもよいが、白のポスターカラーが使いやすい。



(9)絵具
 ふつうの水彩用えのぐで十分。多色印刷、表紙、さし絵など、着色原稿を描く時に使う。ただし、初歩のころは黒一色で描きあげることがほとんどである。



(10)フェルト系のペン
 マジックインキ、サインペン、筆ペンなどの商標で売られている。ふつうのペン先では描けない太目の線、文字などを描く時に使う。特に擬音などを入れる時に便利。あんがいよく使うものであり、すぐかわく特性を生かして、黒ベタの部分をぬりつぶすのに使うのもよい。これも太線用、細線用など2、3種もっていると重宝。


(11)カラスグチ
 ワク線を引く時に使う。黒インク、墨汁をその口にさし、ものさしや三角定規を当てて使う。ネジの調整で太い線、細い線が自由に引ける。



(12)コンパス  
 エンピツ用のもの、カラスグチのついたものがあり、正確な円を描く道具。



(13)ものさし、三角定規
 特に正確な直線を描かねばならない時、ものさしや三角定規の直線に、ペン、カラスグチ、フェルトペンなどをあてて線を引く。ワク線、背景としてのビル、窓ワク、家具、石だたみなど、直線で構成されているものを描く時に使うときれいな画面ができあがる。




(14)雲形定規
 フリーハンドではむずかしい曲線を引く時に使う。車、飛行機、舟など、主としてメカニックなものを描く時に、必要な曲線に合った形の雲形定規を選んで線を引く。使い方は、ものさしなどと同じ。



(15)したじき
 ペンの走りを適度のなめらかさにするために、用紙の下にしく。ボール紙や大型の雑誌でもよい。市販品のゴム製は、やややわらかすぎ、またガラス板は堅すぎる。自分のペンタッチに合ったものをさがすとよい。



(16)消しゴム  
 上質のものを選ぶ。なかにはペン描きしたあと、下描きを消そうとしてペン描きの部分まで消えて(こすりとられて)しまうようなものがあるので注意。



(17)その他
 ペン先を常にきれいにぬぐうためのペンふき(ボロぎれでよい)消しゴムのカスをはらう羽毛、筆を洗ったりする容器(筆洗い)絵具を使うならパレット、容器皿など、またアイディアを練ったり思いついたことをどしどし書きこんでおくメモ用紙、描きぞこなった部分を切りとってしまうハサミやカッターなどを用意できれば完ぺきである。


「劇画専科」初等科コース第2回・講座は「デッサン編」です。

SAITO-PRODUCTION CO.,LTD.

Copyright(C) 2001-2010 SAITO・PRODUCTION CO.,Ltd. All Rights Reserved.禁無断転載
e-mail : info@saito-pro.co.jp