(1) 似顔絵
Aくんがお父さんの顔をなんとなくスケッチしました。お父さんの顔の中で、とくにマユ毛が他の人のマユ毛よりも大きくて濃いとつねづね思っていたAくんは、自分でも知らないうちに、その大きくて濃いマユ毛を“強調して”描いていたのです。
絵を描こうとする気持ちの中に、もうすでに“デフォルメ”がしのびこんでいるのです。
ここでAくんは気づきました。お父さんの似顔絵を描こうと思えば、お父さんの“特ちょう”である、大きくて濃いマユ毛を誇張して描けばよいということを。
つまり、それが“デフォルメ”の方法です。
似顔絵の技法はデフォルメの技法であり、デフォルメという言葉がもっともぴったりくる世界です。 その人物の顔の中で特ちょうのあるところを思い切って誇張していますね。すぐれた似顔絵は、その人のはだの色から生活、人生といったものまで感じさせます。
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(2) マンガとデフォルメ
マンガの世界はデフォルメそのものです。じつに多種多様、デフォルメなんてなまやさしい言葉であらわせないくらい、なにもかもがオーバーに誇張されて描かれています。
手の指が4本や3本しかなかったり、3頭身、2頭身はごくあたりまえです。顔全体が目であったり、口であったり、動物に人間と同じ手足をつけたり、花や草に目や耳をつけたりもします。
これは、マンガの目的として、おかしさ、おもしろさ、すなわち“ギャグ”を見せることにあり、それをより強調して見せようとする必然性から、てってい的にデフォルメされた画風が生まれたわけです。
ですから、マンガの世界では、デフォルメの型というのは特別ありません。あくまで作者の感覚でつくられるわけです。 |
ヨコ線がいろんな角度からきれいに引けるようになったら、タテ線も練習してください。
タテ線の場合、5センチぐらいの長さなら手首は動かさずに、ペンを持つ指だけの動作で引くようにします。
劇画では、スミ絵のように毛筆を使ってぼかすことができません。画面の暗いところ、やや明るいところなど、濃淡はすべて線の重ね合わせで表現されます。したがって斜線を重ねるテクニックは、あらゆるところに使われます。なん枚もなん枚も紙を斜線でうめて練習しましょう。
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(3) 劇画とデフォルメ
それでは劇画におけるデフォルメとは!?
ここでは、マンガほどのオーバーなデフォルメは用いられません。なぜなら、劇画とはギャグを見せるものではなく、あくまでストーリィを主体に描かれた“絵物語”であるからです。
ざっと手近の雑誌を開いてみても、スポーツもの、ミステリィ、スパイ・アクション、学園もの、戦争もの、忍者・剣豪などの出てくる時代もの、SF、
ホームドラマといったものからドキュメンタリーやルポルタージュ、なかには広告文を劇画で読ませる、といったものまでが見られます。
なんのことはない、映画やテレビ、小説でとりあげられるストーリィのすべてが、劇画に描かれているわけです。
それだけに劇画のストーリィは一貫して、まずリアリティが要求され、フィクションをどのようにして真実感をもたせるかといった工夫がなされているわけです。
そこで劇画の世界では、その現実的なストーリィに適した画風が生まれ、発達してきました。
ストーリィが現実的であれば、やはりリアルな画面でなければ、うまく表現できません。極端にいえば、ドキュメンタリー・ドラマといった現実そのもののハナシが、もしマンガ風な絵で描かれたとしたら、もう迫真感もなにもない、ただの“絵空ごと”としてうけとられてしまうことでしょう。
そういった理由から、劇画の世界では、人間や動物、あるいは背景になるビルや樹木でも、骨格や筋肉、または原型を無視したようなデフォルメはゆるされなくなってきたのです。
それなら、まるで写真のように、実物そっくりに描けばよりリアルではないか、という反論がありそうです。
しかし、それもまちがっています。
ひと口にいえば劇画も表現の一手段であるということです。そこで、むしろむだな線を省略し、より単純な数少ない線でもって、多くのことがら(動きや表情など)を表現することができれば、それにこしたことはありません。 |
(4) 表現技法のいろいろ
写真
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写真そのもの。 |
写真
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の写真にできるだけ忠実に描いたもの。ふつう「ペン画」と呼ばれるもので、線の数も多く、時間がかかります。絵としてのおもしろみは、少ないようです。
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写真
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光と影を強調したもの。この描きかたは、一枚の絵としてはおもしろいが、なんコマにもわたって描くとき、人間の動き、表情を出すのがたいへんです。 |
写真
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現在のさいとう・プロが使用している絵がら。典型的な劇画のデフォルメです。不必要な線が整理されていて、動きや表情が表現しやすい。長編作品であってもらくに見たり読んだりできます。
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写真
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童話のような物語を表現するのにぴったりの画風。
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写真
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マンガ的デフォルメ。ギャグを見せようとしたもの。 |
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6個の顔がならんでいます。 の写真から5通りの技法で描いたものです。
はできるだけ写真に近く描こうとしたもの。小さい線をかさねて明暗をぼかし、立体感を忠実にだそうとしている。
は線がかなり省略され、かわりに線の強弱が加えられている。つまり線の強弱で質感を表現しようとしたもの。
  はさらに線が省略され、単純化されたもの。線のつみかさねよりも強弱のほうに重点がおかれ、明暗をはっきりさせている。
劇画でつかわれるのも主にこの で、なかでも の顔の描きかたが、もっとも多い。( はともすればリアリティに欠けるきらいがある)
なぜ の顔の描きかたが、よくつかわれているのでしょうか?それにはそれなりの理由があるはずにちがいありません。
では の顔をもう少しつっこんで研究してみましょう。
の描きかたの特ちょうとして、
A. ( はべつとして)とくらべて線がおもいきり省略されている。数をかぞえられるくらいである。
B.線にはっきりしたアクセント(強弱)があること。それらは写真の顔 の質感を表現しようとしているためです。
C.一本一本の線が、それぞれ画面の構成上、はっきりした意味と主張をもっていること。 例えば“鼻”には“鼻を表現するための線”があり“顔のりんかく”にはそのための線が、“口”には“口の線”が描かれているということで、このことはとりもなおさず無意味な線は一本もつかわれていない、ということになります。
したがって、顔のりんかく、鼻、口、などが、はっきりそのものの形となって見るものの目にとびこんできます。 そして、それはちがった角度から描いても(顔の向きをかえても)同じ線をつかえば鼻なら鼻に、同じものが描けるというわけなのです。
D.写真 から、もっともポイントとなる部分、または最小限必要な部分から選びだされて描かれていること。 |
わたくしたちは一枚の人物写真をモデルにして、数種の画風をつくりあげるこころみをしたのです。
その結果、できるかぎり作業(線)を省略化し、なおかつモデル写真に、できるだけ近い表現をといった要求をみたせているのが の画風であることがわかったわけです。
そしてこの の画風が劇画におけるデフォルメの原型をしめすものといってさしつかえないでしょう。
では、なぜ の画風が劇画に適しているといえるのでしょう。
それは、写真から出発し、写真を簡略化したものでありながら、すでに一つの“スタイル”をつくっていることです。
このことは重要で、顔の向きがかわっても、正面顔、横顔、見上げた顔、うつむいた顔など、もういちいち写真を参考にしなくても描くことができます。
また、喜び、悲しみ、怒り、あきらめなど感情を“表情”として描こうとする場合、自然な表情を無理なく表現しやすい特長があります。
ただし、ひとつ注意することは、 の顔はあくまでこの程度のサイズに適したものであるということで、もっと大きな画面では に近い描きこみが必要でしょうし、画面が小さくなれば のようにさらに線を省略することになるでしょう。
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劇画が要求している絵とは何か?それは先にもふれたとおり“ストーリィをもっとも適確に表現しうる絵(画風)”ということになります。
そういってくれば、 のような描き方でストーリィを運ぶのはむりがあり、かといって極端にデフォルメされたマンガチックな絵では表現力に限界があります。 あるいは に近い顔(または画風)がよく使われる理由がおわかりでしょう。
劇画におけるデフォルメとは……
それは、ひと口にいって、“より実際に近いものを、より少ない線によって表現すること”であり、そしてそれは似顔絵やマンガのものにはない“劇画の世界独特の技法である”というのが結論です。
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