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さいとう・プロの劇画技術を公開した、劇画家を目指す人のテキスト
「さいとう・たかをの劇画専科」(リイド社/1980年刊/絶版)初等科コース第5回・講座です。


初等科コース・第5回・顔、その描きかた
それでは「顔」の描きかたへ進みましょう。顔は劇画のなかでももっとも重要な部分です。作者にとっては“看板”であり、セリフをしゃべってストーリィを進めていく大役をもっています。しっかり勉強しましょう。
「顔」といっても人間は十人十色それぞれちがった顔をもっており、まったく同じ顔が広い地球上をさがしても見あたらないという不思議は、いまさらいうまでもありません。

第5回 ペン描き(3)

(1)顔
  男の顔、女の顔、子供の顔、おとなの顔、老人の顔、日本人の顔、外人の顔、それらはそれぞれちがっていても、どこかに共通点がありますね。 顔のりんかく、目の位置、鼻の位置、口の位置など、それらには共通した比率があるのです。
  顔の部分それぞれの比率の平均値をとると、標準の顔、“バランスのとれた顔”ができあがります。
  バランスのとれた顔というのは、男性ならハンサム、女性なら美人である、zといっていいでしょう。
  反対に、あの人の顔はアンバランスだなどということを聞くことがあります。アンバランスな顔というのは、つまり比率の平均値がどこか標準の顔とちがっている、ということです。
  そこで、まず“バランスのとれた顔”とはどんな比率からなりたっているのか、ということから研究しながら顔の描きかたを勉強していきましょう。

 ここに(A)(B)(C)の3図があります。
 まず(A)の顔ですが、この男性はまずバランスのとれた顔といっていいでしょう。
 この(A)図を分解して(B)図、さらに分解していき、顔の部分のそれぞれの位置関係をもとめると、(C)図のようになります。

  (C)図か
ら、さらに顔の上半分をとりだして、各部分の位置関係を線だけでわかりやすくしめしたものが(D)図です。
  (C)および(D)をよく見ると、顔のそれぞれの部分の位置関係の中に、いくつかの法則があることに気がつきます。
  イ、 顔の上半分は、円から両はしを切りおとした形、耳を加えれば完全な円。
  ロ、 顔の中心を通る線と耳の線(耳のつけ根を通っている)は直角に交っている。

 ハ、 まゆの線は、円の中心(赤道)にある。
  ニ、 その赤道(まゆの線)は耳の上部に接している。
  ホ、 鼻の線は、耳の下部に接している。
  ヘ、 中心線は、頭のてっぺんからまゆの線までと、まゆの線から口の線までの距離にほぼ等しい。
  ト、 さらに、まゆの線から鼻の下部、鼻の下部からあごの先までの距離もほぼ同じ。

  以上のことなどが、顔のタテの位置関係の比率ですが、この比率がつまり“バランスのとれた顔”の比率であり、標準的な顔を描こうとするとき、この比率をめやすにすればいいわけです。

  このタテの比率をもとに、ヨコの比率を考えあわせて分解した顔を、正面、横、逆向きと組み立ててみます。つまり前ページの逆行をするわけで、分解した略図から顔をつくりあげるのです。
  実際は、顔の右側と左側がまったく同じという人はいないそうですが、そこまで忠実に描く必要はありません。ちがった人に見えてしまっては、かえってこまります。
 では、ここで顔をひとつ順序だてて描いてみましょう。
  (1)まず、どんな顔を描こうか、適当な顔を頭に思いうかべてください。顔の形、向き、表情などを考えなければいけないわけです。(最初はいちおうバランスのとれた顔をもとにして、思いつくままに描くことにします)
  エンピツ(Bか2B)で顔の“りんかく”を描きます。
  (2)左の分解図をつくるのです。このときエンピツはかるく、だいたいの顔型だけをつくるようにします。
(3)つぎに、目、鼻、口など、バランスをよく考えて、各部分の位置をきめます。
  (4)位置が正しいと思ったら、表情を思いうかべながら、各部分を正確に、くわしく描き込んでいきます。このときペンをつかったらどのように描くかということも考えておきましょう。
  (5)消しては描きながら、エンピツの下描きが満足すべきところまできたら、ペンをつかってしんちょうにエンピツの線の上をなぞっていきます。
  このとき線の強弱(太い線と細い線)、線の方向や流れかたなど、よりうまく表現できるような線をえらんで、それぞれの線の役わりをきめます。
  (6)ペン描きが終われば、よくかわかして消しゴムをかけ、黒の部分(ベタ)を筆でうめて、はい、できあがり!

  プロともなると“アタリをとる”といって顔のりんかく、目や鼻の位置を大ざっぱに描いただけの下描きで、表情ゆたかに顔を描き上げることができます。
  しかし、そんな芸当ができるのも、訓練と長い経験によるたまものです。
  はじめはしっかり正確な下描きをするように心がけましょう。土台がぐらつくようではりっぱな家が完成するはずはありません。

(2)顔を描くときの注意点
 1. むだな線はつかわないこと。
  より少ない線で、より効果をだす工夫をしましょう。これは顔を描くときにかぎったことではありませんが、特に顔を描くときは気をつけます。
 2. 線それぞれの役わりをきめること。
  顔のりんかくを表現するための線、目を表現するための線、鼻を表現するための線、口を表現するための線、その他それぞれの線は、線の強弱(アクセント)とペンを動かす方向できめてしまいます。線それぞれの役わりをきめてしまわないと、顔の向きがかわったり、表情をかえたりしたときに、とたんにちがった顔になるおそれがでてきます。
 3. 顔の各部のなかでも「目」を描くときは特にしんちょうに気をくばってください。目にまちがった不正確な線が入ると、もうその顔は台なしです。“目は心の窓”であり“目は口ほどにものを言う”のは劇画でも同様です。
 4. セリフをしゃべっている顔を描くときは、そのセリフと表情がぴったりするように、映画スターになったつもりで、表情を研究してください。同じセリフでも、表情ひとつで、その声(セリフ)のうったえかたがかわってくるものです。

(3)顔の描きわけ、個性の表現
  人の顔はその人物の“看板”であり“象徴”であるといわれます。
  それは劇画の登場人物においてもしかりで、その顔を一コマ見ただけで、その人物がどのような人間なのか、性格や人生、そのときの感情や行動など、その人物をズバリと絵を見る人(読者)に理解してもらえるよう、表現に工夫をこらさなければなりません。
  ここに、ある一人の人物が画面にあらわれます。まず男か女かは一目りょうぜんです。年齢もほぼけんとうがつきます。そして、どうも目つきが鋭いから、たぶんワル者だろう。といったこともわかります。それももっと強調してスゴ味をだそうとするなら、顔に刃物きずをつけたりする手があります。
  しかし、ふつうの表現法ではその程度でおしまいです。
  では、そうした人物の個性や特徴はどうしたら、より多くのことを描きあらわせるのでしょうか。
  これはたいへんむずかしいことです。
  劇画の表現にも、ある程度のルールというか、約束ごとというか、基本とするものがないではありません。しかし、表現はあくまで自由であり、無限であり、作者のセンスの問題であるのです。
  まずここでは「顔」による個性や特徴のかきわけかたを勉強していきましょう。
  はじめのうちは、いろんなタイプの人物を描きわけようと思っても、なかなかうまくいかないようです。なぜなら、経験不足もあって、顔形、目や耳、口、ヘア・スタイルなどパターンがきまっているため、どうしても、似かよった顔をつくってしまうきらいがあります。
  では、どうすれば人物の「顔」を特徴的に描きわけることができるのか、考えてみましょう。
  いちばん簡単な方法は“モンタージュ法”です。顔の部分をバラバラに考え、目なら目、鼻なら鼻、口は口、といろいろなものを描いてみて、それを組み合わせる方法です。警察で犯人捜査につかうモンタージュ写真のつくりかたとまったく同じです。

(4)顔の形、そのいろいろ
  人物の顔のちがいを描きわけるために、土台(基礎)となるものは顔のりんかく、顔の形です。顔形だけでも、かなりちがった顔の印象をあたえることができます。 人相学によれば、人間の顔の大きさやりんかくを次の4つの基本型に分類しています。
  (A) 四角型、(B)丸型、(C)タマゴ型、(D)混合型(四角型+タマゴ型)(タマゴ型+四角型)の4つです。
  顔のりんかくは、人物を特徴的に描きわけるうえでの重要な要素の一つとなります。
  登場人物の顔をつくるとき、まず顔のりんかをとえらびます。四角でいくか、丸にするか、はっきり顔の形をわけてかんがえてみると、あんがいたやすく“個性的な”顔がつくれるものです。

  顔の形をきめるときから、その人物の役わり、性格などを特徴づけておくことが大切です。そして、その顔形に目、まゆ毛、鼻、口、をつけ加えていきます。


「劇画専科」初等科コース第5回・講座は「ペン描き(4)」です。

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