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さいとう・プロの劇画技術を公開した、劇画家を目指す人のテキスト
「さいとう・たかをの劇画専科」(リイド社/1980年刊/絶版)初等科コース第6回・講座です。


初等科コース・第6回・顔の部分、顔の表情の描きかた
 前回は、劇画のなかでももっとも重要な部分の「顔」の描きかたの勉強をしました。
 「顔」といっても人間は十人十色それぞれちがった顔をもっており、まったく同じ顔が広い地球上をさがしてもみあたらないという不思議はいまさらいうまでもありません。
 その顔の違いをあらわすのが、顔の部分である「目」「まゆ毛」「鼻」「口」「頭、頭髪」なのです。
 今回は、それらの描き方、そして、顔の表情の描きかたの勉強をしましょう。

第6回 ペン描き(4)

(1)目、そのいろいろ
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 目は重要なポイントです。目は画面となったとき、つねに読者を見つめます。表情をつけるときの中心点でもあります。あなたは目だけのクローズアップを見て、すばらしい感情表現だと思ったことがありませんか?
 目の形にもいろいろあります。一重、二重、つり目、さがり目、大きな目、小さな目、外国人(白人)の青い目など。また女性を美人にしたり可愛くしたりするのは、目に゛まつ毛゛をつけるなどちょっとした工夫です。
 目をうまく描くことによって、その人物の特徴を、性格から感情まで、かなりほりさげて表現することが可能となります。
 基本的には、つり上がった目は鋭くて、荒々しい気性や感情をあらわすのに適し、また、さがり目やたれ目は、お人好し、善人の表現に向いています。
 また、眼間距離がひろいとマのぬけた感じをあたえ、逆にせまいと神経質な印象をあたえます。
 目を描くコツの一つは、ひとみ(黒目の部分)をやや小さくすると、表情がつくりやすいことです。

(2)まゆ毛、そのいろいろ
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  まゆ毛も表情をつくるとき参加します。
  基本的には、太いもの、細いもの、長いもの、短いもの、つり上がったもの、さがりまゆなどがあり、目とまゆ毛の間かくが、ひろいもの、せまいもの、があります。

  まゆ毛も、目とともによく動く部分ですから、描きかたの工夫で、表情ゆたかに、個性的な顔をつくることができます。表情づくりのコツの一つとして、鋭い目つきをつくるときは、目とまゆ毛の間かくをせまくし、逆に間かくをややあけると、おだやかな顔となります。

(3)鼻、そのいろいろ
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 鼻は動かない部分ですから、表情づくりにはちょくせつ参加しませんが、その位置が顔の中央線上にあるため、その個性を印象づけるうえにおいて重要な役わりをはたしています。
 基本的には、高い鼻、低い鼻、カギ型、スキー型、ダンゴ鼻、大きなもの、小さなもの、ヨコはばの広いもの、せまいもの、タテに長いもの、短いもの、など。
 よくととのった鼻は知性的な感じで、大きめの鼻は男性的な印象をあたえます。また、ボクサーのようなくずれた鼻などは生活を感じさせますね。
 美容整形する人の大部分が、鼻を高くしたり低くしたりしていることからみても、鼻は顔だちの重要なポイントだとわかりますね。
 あなたも画用紙の上で、いろいろと鼻の整形手術をしてみませんか? 鼻を描きかえることで、がらりと顔の印象がかわることがあります。
 顔の向きがかわったとたん、鼻の形がぜんぜんちがって見える絵がよくあります。ダンゴ鼻に見えていた鼻が、横顔になったらテングさまだった、といったような例です。どんな角度からでも、同じ形の鼻が描けるよう(表現できるよう)に研究しましょう。
 実物の鼻を見ればわかるとおり、鼻にはカドがあるようで、ありません。正面顔の鼻を描くときは、あまり強い線(太い線)で描かないようにするのがコツです。

(4)口、そのいろいろ
 口の形や描きかたは、そんなに多くの種類があるわけではありません。
 開いた口、閉じた口、おどろいた丸い口、キッとへの字にむすんだ口、それに“歯”をのぞかせたり、むき出したりして、口の表情づくりに味つけをします。
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 しかし、劇画での“口”はたいへん重要な役わりをもっています。それは“セリフをしゃべる”ということです。
 いましゃべっているセリフがどのような意味のものであるかをよく考えて、感情、発音、発生量、などを十分頭に入れてから、それにぴったり適した“口の形”を描くようにします。
 同じ「アイラブユー」のセリフでも、口の描きかたで、ささやいたものか、大声でさけんだものか、さまざまに変化します。
 そして、口の動き(描きかた)とセリフがうまくマッチしているかどうかで、ストーリーのもりあがりかたがよくなったり、わるくなったりするのも事実です。
 口の形、描きかたは、その作者によっていちばん“パターン化”しやすいものです。いろいろと変化を工夫して、読者にみあきられないようにしましょう。

(5)頭、頭髪、そのいろいろ
 頭髪、すなわちヘア・スタイルは、それを見ただけで、その人物についてのかなりの情報がえられるものです。
 七、三にきっちり分けてあるのはサラリーマンであるとか、角がりは職人風、長髪は若者や芸術家タイプ、もじゃもじゃするとフーテンみたいになり、つるっぱげはお坊さん、短くかりこんだスポーツマンタイプといったぐあい。
 時代ものの場合は、もっとてっていしていて、武士、殿様、町人など、ちょんまげを見ただけで、職業や身分がわかります。
 また金髪は外人、あるいははげあがりかたの程度からおおよその年齢がわかったりします。
 そういったイメージ(既成概念といいます)を、こんどは逆に登場人物の顔をつくるときに、その人物の特徴として利用すればいいのです。
 あなたがおシャレをしようと思ったとき、まず考えてみるのがヘア・スタイルのことではありませんか?
 顔立ちそのものは、変えることができませんが、ヘア・スタイルを変えることによって、その人の印象がガラリとかわる事があります。 歌手やスターがヘア・スタイルを変えてまるで別人のようにイメージ・チェンジをはかることをあなたも知っているでしょう。
 頭髪の形はそういったことで、劇画のスターにとっても重要な役わりをはたします。
 頭髪、ヘア・スタイルには、これでなければいけないというきまりはありません。
 似たような顔立ちしかかけない人でも、ヘア・スタイルの変化で“他人”にみせることができます。思い切ったヘア・スタイルを考えてください。
 ヘア・スタイルも見る角度がかわると、ちがう人物になってしまうおそれが多分にあります。どんな角度からでも同じものであるように描けるように研究してください。
 ヘア・スタイルを描くコツとして(たとえマッ黒にぬりつぶすとしても)つねに毛髪の流れかた、その方向をよく考えておきます。
 多く登場する人物には、あまり描きづらい(手数のかかる)ヘア・スタイルはさけましょう。
 女性を描く場合、ファッション雑誌やスターの写真などを参考にするといいでしょう。

(6)その他、顔づくりの小道具
 顔をつくるには、目や鼻、口、などのほかに、いろいろな、いわば顔づくりの“小道具”といったものがあります。“メガネ類”はよくつかわれますが、口ひげ、鼻ひげ、あごひげなど“ひげ”のいろいろ、“眼帯”“ほくろ”“きずあと”などをうまくつかえばユニークな顔ができるばかりか、性格表現にも役立ちます。

(7)顔の表情の描きかた
 顔の各部分の描きかたをおぼえ、いろんな顔が描けるようになると、つぎはその顔に表情をつける大切な課題がまっています。
 人間には感情があり、さまざまな心の動きは、その顔の変化や、からだの動作であらわされています。
 劇画がドラマであり、その主役である“人間”を描くとき、感情をどのようにして表現するかは大きな課題です。
 同じドラマでも、映画やテレビでは、俳優さんが、そのときどきの感情を、うまく“演技”として表現してくれます。
 しかし、劇画はそうはいきません。感情の表現は描き手であるあなたが一手に引きうけており“描く技術”によってそれをあらわさなければならないわけです。いいかえれば、あなたが登場人物のすべてに“演技をつける”ことにもなります。
 劇画の場合、感情の表現の中心は顔の“表情”です。
 うれしいとき、悲しいとき、おこったとき、おどろいたとき、元気なとき、ぐったりつかれたとき……人間の顔は、そのときどきの感情がじつに複雑に顔にあらわれます。
 表情の描きかたは一口にいって、目、まゆ、口、の三つの変化です。
 基本となるのは、
(1)笑い顔、(2)おこり顔、(3)泣き顔、(4)びっくり顔、の四つで、それぞれ、目、まゆ、口、の三つが、どのように変化して関係をもっているか、よく研究しましょう。

 しかし、たとえば“笑い顔”の一つをとりあげても、その笑い方は実にさまざまです。(1)ほほえみ、(2)大笑い、(3)しのび笑い、(4)ふき出し笑い、(5)バカ笑い、(6)あざ笑い、などなど……
 
それらの表情をその状況に応じてうまく使いこなす(描きわける)ことができなければなりません。

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 それにはその人物になったつもりで描くことが大切です。
つまりドラマを演技する俳優と、演技をつける監督と同時に“なってみる”ことです。

 映画やテレビを見るとき、俳優さんたちの表情をしっかり観察して勉強しましょう。

 カガミとにらめっこするのもよい方法です。いろいろな表情を作りながら、デッサンしましょ。
 劇画のセリフはあくまで「活字」です。それを“感情のこもった声”として読者にうけとってもらうには表情は大切な役わりをします。表情は“ややオーバーぎみに”描くと人物がいきいきするものです。

(8)顔 の“向き”

 いろんな人物の顔が描け、それに思いどおりの表情がつけられるようになってくると、つぎは顔の“向き”の研究です。
 顔を描く場合、ふつう、「まっ正面」か「ま横」に見た顔が、いちばん描きやすいといわれています。これは、この“向き”が平面の上(紙)にいちばん表現しやすいからで、幼稚園児の描く“人の顔”が、ほとんどこの向きを使っていることからみてもわかります。
 また右利きの人なら、やや向かって左を向いている顔、横顔なら向かって左を向いている顔を自然と多く描いてしまうことも事実です。これは右利きの人にとって、運筆から考えて描きやすいことにほかなりません。
 しかし、劇画は多数のコマのつながりによって構成されています。いくら描きやすいからといって、同じ顔ばかりが並んでいては、すぐに読者にあきられてしまいます。
 そこで、場面によって顔の向きをいろいろとかえて、同じ人物の顔でも、各画面に変化をつける工夫をするわけです。
 しかし、これはたいへんむずかしいことで、一つの顔を、まえ、よこ、ななめ、上、または下、とあらゆる角度から描いて、同じ人物の顔に見せることはたいへんです。角度によっては目の位置がくるったり、鼻が上下したりして“他人の顔”になりかねません。
 では、どうしたらいいのか。
 それにはうまい方法があるのです。
 あなたが、人の顔ではなくボールを描くとします。これなら簡単に描けますね。どの角度からみてもただの球型なんですから。
 それを顔に応用しようというわけです。
 顔のバランスの項を参考にして、目、鼻、耳、まゆ、各位置の線の入った“ボール”を頭にえがいてください。この“ボール”をいろいろな向きに転がすことによって、さまざまな角度から見た顔を得ることができます。
 向き、角度によって、目の線、鼻の位置、まゆ、耳、口の線がどのように変化したか、よく見て研究しましょう。
 なん度もあらゆる角度から描き、とくにむずかしい“向き”に挑戦しましょう。そしてどんな顔の向きでも十分描きこなせるようにしておきましょう。
 とくに注意することは、顔が見る角度によって平面的にならないよう、どんな向きを描いても、まったく同じ立体感が出せるようにすることです。それには“鼻の高さ”をどんな角度からでも同じ高さに見えるように描くことがポイントになります。
 ねんどを使って小さな顔(頭部)の模型をつくり、それをあちこち向きをかえて描いてみるのはいい練習になります。ぜひやってみましょう。

「劇画専科」初等科コース第7回・講座は「ペン描き(5)」です。

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