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さいとう・プロの劇画技術を公開した、劇画家を目指す人のテキスト
「さいとう・たかをの劇画専科」(リイド社/1980年刊/絶版)初等科コース第11回・講座です。


初等科コース・第11回・背景について(2)
 背景(バックともいう)とは、文字どおり"背後の景色"をいいます。画面のなかの人物その他の主題の背後、または空間のことで、この処理がうまくできているかどうかで、その画面が効果的に生きたり、また逆に画面全体をぶちこわしたりもします。 今回は、その背景の描きかたのいろいろについて勉強しましょう。

第11回 背景の意義と効果(2)

(1)自然風景、樹木、空と雲、水
自然の風景も劇画の背景には多いものの一つです。機会をみつけてスケッチしておきましょう。

(2)樹木
自然の中心となるのは樹木です。樹木を描く場合、それぞれの木がもっている特徴をよくつかんで描きましょう。
●幹についているもよう。 ●葉っぱの形、茂りぐあい。
●枝のつき方、のばした形。 ●根元の形。
などがポイントになります。 また、それぞれの木々が、どんな場所に、どんな状態ではえているのか、よく観察しておきましょう。
樹木や草の茂りを描く場合、ペンのほかに筆やサインペンをうまく使いこなすと、スピーディに、実感のある画面ができ上がります。
(A)は、ペンだけを使って描いたもの。
(B)は、筆を主体にペンを補足的に使って描いたもの。
(C)は、サインペンでほぼ形態をととのえ、ペンで陰影をつけたもの。
三つの絵には、それぞれに“持ち味”がありますね。 劇画家たるもの、早く描くことも技術のうちですが、この三つのうちでは(C)がいちばん早く描け、つづいて(B)(A)はかなりの時間を要します。(ただし、描く人によって、道具の使いわけに得手不得手があり、いちがいにはいえませんが、初心者の場合はこの順番になるように思います)

(3)筆、マジックインキなどの使いかた
筆は“面相筆”という細くて絵を描くための専門用を使います。筆には墨汁をつけ、こい・うすいの差がでないよう、かすれた部分ができないように、つねにインクで描いた部分と同じこさをたもつように注意します。そうでないと印刷されたとき、うすいところやかすれた部分が消えてしまったり、ちょん切れたりすることがあります。 マジックインキ、サインペンなどは、まずそれになれないと、なかなか思いどおりに使いこなせません。インキが出すぎて思わぬ線になってしまったり、反対にインキの出がわるくてかすれたりすることがよくあります。 いきなり原稿へ描きこむのはさけて、試し描きをするくらいの注意が必要です。 しんを引き出したり、けずったりして、特殊な線を描くのに用いたり、インキの出かたを調節したりできます。 またインキがうすいもの、水に流れ出すものは使わないようにしましょう。 筆もマジックインキもいったんなれると、たいへん便利な道具です。描きやすいものだから、つい使いすぎるきらいもでてきます。しかし劇画を描く道具は、あくまでペンが主役であることを忘れないように。
ペン、筆、サインペンを使いわけて、木や草の質感を表している

(4)空と雲
空は多くの画面に出てきます。べつにはっきりあらわされていなくても、屋外のシーンなら、つねに頭上に存在しているわけです。 空を描く、ということはかんたんなようであんがいむずかしいものです。まず“雲ひとつない澄みきった青空”となれば、あなたならどう表現しますか? 「…その日は雲ひとつない澄みきった青空でした…」 なんてネームを入れるぐらいがオチで、表現のしようがありませんね。 さて、もうおわかりのことと思いますが、空を描く場合は“空にあるもの”を描く以外に方法がありません。 夜空なら、月のいろいろ、無数の星、流れ星、というのもしゃれていますね。 昼間なら、太陽、雲のいろいろ、ハトやトンビが飛んでいるところも絵になります。 なかでも雲はさまざまな形態を見せてくれるもので、画面の背景としてはたす役わりも大きいものです。
ペン、筆、サインペンを使いわけて、木や草の質感を表している

(5)水のある風景
海に波はつきもの。明暗の対比を効果的に使って荒々しい波を。 水平線は浮かぶ船や島で表現します。 静かな湖は水面がかがみのよう。 川は流れる水の動きをとらえよう。

(6)自然風景を描くときの注意点

〈自然風景を描くときの注意点〉
1.
とりわけ自然風景は、いつも同じ姿をしているわけではありません。時間の変化、季節のうつりかわりで、はっきり変貌をとげます。そのことはまたストーリィの進行に、時間や季節を表現する手段として多く用いられています。 太陽や雲の変化は時間をあらわすのによく使われます。
2.
また四季は自然風景の中にそれとなく描きこんであらわすことができます。花の咲きみだれているのは春。 トンボや入道雲は夏の代名詞。 秋はいちょうの落葉や風に舞う枯れ葉。 枯れ木、こがらし、雪景色で冬。 といったものは、ほんの一例です。
3.
同じ一本の立ち木でも、季節によってがらりと姿をかえること、またどのように変化するのか、よく念頭に入れておきましょう。

(7)のりもの、その他の小道具
車や飛行機は現代もの劇画の花形です。これらをひっくるめて私たちは“メカ”といっています。 メカは背景としてよりも、小道具的なあつかいで劇画に登場することが多く、また最新型のメカを登場させるだけでナウな感じを呼びおこします。メカは実物そっくりに描くことがいのちです。そのためにたいへんむずかしく、私たちの場合も、実物写真やプラモデルを見ながら描く方法を多用しています。 しかし、実物そっくりに描くということが写真のように描けばいいというのではありません。メカにもメカ特有の“デフォルメ”のしかたがあります。つまりまえに勉強した似顔絵の要領です。特徴をざっとつかんで、ジェット機なら“ジェット機の似顔絵”を描けばいいのです。
車を描くときポイントになるところは車輪(タイヤ)です。乗用車、トラック、バス、オートバイ、自転車、みな同じです。 車輪の描きかたがまずいと、車の安定感、スピード感がでてきません。 船の場合は胴体の曲線に気をくばります。波を切って走るスピード感は、波の描きかたに左右されます。 飛行機は胴体と翼のバランスがポイントです。

(8)メカを描くときの注意点

〈メカを描くときの注意点〉
1.
まず大ざっぱに基本的なスタイル、形をとらえるようにしよう。こまかいところばかりに気をつかうと全体のデッサンがくるうもととなる。
2.
金属でできている感じ、つまり本物らしく描く工夫をしよう。オモチャにならないように。
3.
実物を自分の目でたしかめ、スケッチすることも大切。写真はあくまでも参考で、ものの大きさ、重量感までつかめない。
4.
メカのもつ独得のカーブは雲形定規を使ってひく。一定の太さの線は流動感を出すのに好都合。
5.
専門誌などの写真をつねづねスクラップしておくと役に立つことが多い。

メカは実物そっくりに描くことを主眼にするといいましたが、創作や想像で描くことが許されないというわけではありません。 どしどし、特製の車やジェット機を創作すればよろしい。しかし、あくまで“本物らしく”リアリティは忘れないように。 また、車名や年式をはっきりストーリィに出した場合は、こまかい部分まで十分たしかめながら"ウソのないように"描くようにしましょう。

「劇画専科」初等科コース第12回・講座は「作品を描こう」(最終回)です。

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