(1)効果バック
| 背景のいま一つの役目として“画面の効果をあげる”ということがあります。この目的で使われているのが“効果バック”といわれているものです。
これは背景というよりも、画面の空間(余白など)を線や模様を入れたり、ぬりつぶしたりして、美しく感覚的に処理したもので、実景ではありません。
奥行き、立体感を出す効果バック かんたんな斜線を使ったり、人物とふきだしを残してまっくろにぬりつぶしたり、スクリーン・トーンを貼ったりする。これだけで人物が画面から浮き出してきて奥行きを感じさせる。ちょうど写真でバックのピントをぼかしてとる方法に似ています。 |
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登場人物の感情や心理状態を強調する効果バック
いろいろなもようを描きこんだり、図型化したりする。その他の効果をねらった効果バックには、画面(コマ)に変化をつけるもの、画面構成のうえで構図のバランスをよくするための描きこみなどがあります。
いずれにしろ、効果バックにはいろいろな種類があり、きまったルールがあるわけではありません。ここにあげたのはほんの一例で、これらを参考にして、あなたもユニークな効果バックを工夫してみてください。 |
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(2)スクリーン・トーンについて
| スクリーン・トーンとは、セロハンのような透明紙に線や点がいろんな模様となって印刷されており、裏面に圧着ノリがつけてあるものです。
1枚の大きさは21センチ×31センチで、いろいろな種類の模様がつくられ文具店などで売っています。 |
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| スクリーン・トーンの使いかたはいろいろありますが、広い面積に模様を描かなければならないとき、これを貼りつけるだけで描く労力がはぶけます。
また服のがらやカーテンの模様として利用するのも画面を美しく見せます。 |
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| スクリーン・トーンの貼りかたは画面の上からのせ、貼ろうとする部分だけを固いもの(ビンの底など)でこするとくっつきます。切るのはカッターナイフで形に合わせて切りとります。
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(3)スクリーン・トーン使用の注意点
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〈スクリーン・トーン使用の注意点〉
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1.
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スクリーン・トーンを貼るのは原稿の仕上げのいちばん最後です。貼ってしまうと消しゴムはもう使えません。 |
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2.
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あんまり複雑な形に使用すると、ぴったりに切りとるのがたいへんです。また高価なものですから、ここというところで効果的に使うようにしましょう。 |
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(4)背景の描きかた、そのまとめ
| 背景をていねいに描くことは大切なことですが、描きこみが必要以上にすぎると、人物を見にくくしたり、画面全体がきたなく感じたり、かえって平面的になったりするものです。どんな場合も、その画面の主題がなんであるかをはっきり頭に入れておき、背景はあくまで背景として、主題のじゃまにならないように処理することがかんじんです。
場合によっては、いままで行ったこともないような場所をかかねばならないことがしばしばおこります。そんなとき助けてくれるものは写真です。ひまさえあれば、雑誌や新聞から写真を切りぬいてスクラップしておきましょう。また写真から適当に線を省略しながら絵を描く練習もしておきましょう。
背景を描くということは(風景なども含めて)一にも二にもその場面のもっている"ムード"を描くことにつきます。どうしてムードをつかむのか、またムードの感じとりかたなど、これらはテレビを見てるときなど練習してみましょう。 |
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(5)ふきだし
| 劇画の登場人物のしゃべるセリフをネームといい、それを線でとり囲んでだれがしゃべったのかがわかるようにしたものが"ふきだし"です。
ふきだしの形はいろいろとあり、ネームの意味とぴったりするようなものを選んで描くようにします。また画面の一部と考えて、構図のうえでバランスよく配置しましょう。
そして、ふきだしは一つのルールをもっています。それは同一の画面のなかに描いてあるふきだしは、それがいくつあっても、画面の右がわのものから順番によまなければならないということです。したがってネームを入れるとき、先にしゃべるネームから右がわへ入れます。
ふきだしは、画面をぶちこわさないように、またネームがゆったり入るくらいの大きさのものを描くようにしましょう。 |
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(6)擬音
| “擬音”とは画面からとび出してくる音を文字に表現したものです。
「ドバッ!」「ダダダッ」「ザウッ」……など。 劇画ではあらゆるところに使われているのがこの擬音です。 擬音を入れるときは、その音がどんな音であるのかよく考え、できるだけ感じの近い音を工夫します。そしてその音にもっともぴったりした字体で描きこむようにすると効果はバツグン、ほんとうにそのシーンから音が聞こえてくるようなさっかくをおこさせます。
擬音に使う文字は画面では絵の一部です。画面構成のうえでバランスよく、絵のじゃまにならないように入れましょう。 大きな音は大きな文字を使い小さな音には小さな文字を入れることもおぼえておきましょう。 |
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(7)ストーリィを作る
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はじめは短篇(20ページぐらい)を作るつもりでストーリィを考えよう。学校劇のようなものもいい。登場人物はあまり多くなく、展開も複雑なものはさけよう。ただ「起・承・転・結」だけははっきり作っておこう。
ストーリィを練りながら、同時に主人公のキャラクター(顔や性格を画面的に)もしっかり頭の中に作りあげておこう。 |
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(8)下描き
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コマ運びをよく考えながらエンピツで下描きをする。はじめは先にコマ取りをしてワクの中に絵を入れようとすると、画面がきゅうくつになったり構図にむりができやすい。
あらかじめのコマ取りをして画面を作り、ふきだしも、ちゃんとおさめてから、適当にワク取りするつもりでコマのサイズをきめると描きやすい。
劇画は下描きの段階で作品のでき、不できがほぼきまってしまう。十分アタマをひねって表現法を練ろう。時間のゆるすかぎり消してはかきなおそう。
下描きが全篇まとまったところで一度読んでみよう。コマ運びのテンポはうまくいってるだろうか、クライマックスのもりあがりかたはどうか、そしてこの作品はだれが読んでも十分わかるように描けているだろうか、そういったことを検討する。 |
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(9)ワク線を描く
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(10)ペン入れ
| 画面の前面になる部分、描きやすそうな部分からペンを入れはじめるとよい。ペンの運びはある程度のスピードにのせて、いきいきとした歯ぎれのよい線をひこう。ペンを入れながら画面ごとの黒ベタの部分を計画しておき、ペンでしるしをつけておこう。 |
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(11)仕上げ
| ペン描きの終わったものを消しゴムで消す。下描きがすっかり消え、ペンの線だけが残ったものに筆で黒ベタを入れる。つづいて擬音を描き込む。スクリーン・トーンを使うなら効果的に貼る。ホワイトで修正しながら、描き落とし部分がないか点検する。
もう一度1ページから読みながら、誤字などをさがしながら点検する。描き落とし、誤字のないことを確認できれば完成である。 |
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(12)参考作品を見てみよう
劇画の勉強方法はまだまだあります。とくに雑誌に発表されている作品を読むのも一つの勉強です。ここにとりあげたのは、いずれも好評を得たさいとう・プロ作品からの一部分です。次のような点に注意しながらながめてください。 |
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コマ取りのしかた、サイズの変化のつけかた。
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コマ運びと “間” のとりかたとテンポの出しかた。
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画面構成のしかた、アングルの変化、人物の顔の向きと大小(アップ、ロング)の使いわけ。 |
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背景、空間の処理、効果の出しかた。 |
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ふきだしの配置、長いセリフの分割方法。 |
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どの程度の“描きこみ”がなされているだろうか。 |
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《参考作品1》●『サバイバル』(少年サンデー連載)より
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これは飢えの極限に達した主人公サトルが、愛犬――というよりも唯一の友達である子イヌのシロを、しめ殺して食ってしまおうとする激しい1シーンである。ここでは、子イヌの顔や姿をいかに“可愛く”描くかということが大きなポイントになっている。はじめに、その状況――少年が子イヌの首をしめるシーン――を大きな画面でとらえ、そのあとに小さなコマでつないで部分的アップで見せ、少年の表情によって、心理状況の変化を表現していく。2ページ目の上段は、心の中を表現する一例である。激しいシーンは、ななめ切り、変形サイズのコマ取りがしてあり、子イヌが去ってしまったあとは、比較的おだやかな、四角を基準にしたコマ取りとなっている。その対比によって、後半は急にあたりが静まり返った感じを出そうとしている。4ページめ中段のふき出しの位置に注意――右のコマは子イヌが走り去って行くところへ
“声” が追っかけていく感じであり、左のコマは “声” のつづいている中へ子イヌがさらに遠ざかっていく感じである。これも
“間” を作る技法の一つであることをおぼえておこう。 |
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《参考作品2》●『怪盗シュガー』
より
これはプロの“盗み屋”シュガーを主人公としたホットなタッチの作品からの抜すいである。
A)シリーズの“夜明けに笑おう”より冒頭の2ページ。
ここでは、少女ばかりのスリ・グループによる“スリのテクニック”を一風かわった表現方法で見せている。タテ長に切ったコマ取りで、一種の分解写真ふうに三人三様の動きを同時に見せ、サイフをスリ取る瞬間は、さらにアニメーションのように細分して動作を見せる方法をとったもの。そして最後のコマでやっと状況――街の一角、静かな夜――を説明して、平穏無事(?)にスリの成功を語っているわけ。ストーリィーがコミカル調のため、デフォルメもやや強調して、おかしみの出せる絵づくりがしてあることも注意。
B)“太陽の盗賊”のなかの1シーン。
このシーンは、一人の男がある状況を主人公にえんえんと語って説明するところ。ふつう、このようなシーンは、語る男の顔とどっさりネーム(活字)のつまった魅力のとぼしい画面が続いて、読者に読みとばされてしまいそうなところである。それをさけるために、説明の状況をそのまま画面につくり、読者の目をひきつけておこうという工夫がこれで、映画にもよく使われるテクニックの一つ。とくにこの一例のような場合、リアルな画面を作ると、語りの内容もぐっとリアリティをもりあげてくれるものでストーリィーにも重みがでる。
C)“フックで来い!”のうちの1シーン。
これは主人公シュガーがホテルの一室にしのび込むシーン。“状況説明”を主眼にしたコマ運びである。まずタテ長のコマ取りは、その状況が一目りょうぜん。さらにベランダへ降り、ガラス窓をあけ、室内へとしのび込んでいく――といったところ。とくに中央の、手が窓を引きあけるところのコマ取りに注目のこと。これは二つのコマを一組とした動きの表現で、動きのタイミングをうまくとらえることが大切である。
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《参考作品3》●『風よ雲よ剣よ』
より
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時代もの――ことに“武士”をあつかった作品は、現代ものや、また時代ものでも忍者や岡っ引きなどの出るものよりゆったりしたテンポで描かれることが多い。それはサムライの生活、行動が、つねに冷静沈着で堂々としており、作者におちついたイメージをいだかせているためだろう。したがって構図、コマ取りもおちついた感じでストーリィーを進行させていく。しかし、いったん斬り合いがはじまると、はげしいアクションに即応した、大胆で、かつ派手なコマ取りと構図が必要になる。殺陣(斬り合い)は時代ものの何よりの見せ場であり、また“間”のとりかたは“剣術”そのものであって非常にむずかしいものである。これは主人公、風吹波之進の果たし合いのシーンであるが、その“静”から“動”にうつるコマ取りのしかた、テンポの作りかた、そしてまた“動”から“静”に戻っていくさまを参考にしていただきたい。 |
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《参考作品4》●『ゴルゴ13シリーズ』
(ビッグコミック連載)より
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シリーズの“日本人・東研作”のクライマックス・シーンである。舞台は高層ビルの最上階の一室、このストーリィーでの副主人公であるアメリカ人の男が危地におち入り、山場は最高頂に達しようとしているところ。ここでストーリィーのどんでん返しと謎解きがおこなわれ、いっきにエンディング(終わり)へ入っていく。このあたりでは、人物の顔をとくに大アップで入れ、しかもきびしい表情を見せることによって、読者のサスペンス感をもりあげるねらいがこめられている。かなり多いセリフのやりとりは、比較的小さなコマで区切って、テンポの早い会話の感じを出し、バックは単純に処理して人物の表情を生かすようにしてある。殺人シーンはとくに大きなコマで見せ、“大物”の死にふさわしいような、わざわざ3コマでつないでゆっくり倒れていくさまをえがきだしている。そして終章はがらりと変わって静かなムードを出し、ラストでは、ゴルゴ13の乗った飛行機を2コマで見せている。まさに“謎の男”ゴルゴ13は、またどこともなく、遠く遠く、雲の彼方へと飛び去って行った――というところで、飛行機を見送っている人物(アメリカ人)の姿が自然と目に浮かぶようである。このような何か余韻の残るような終わりかたは、ことに連載の場合、読者に次号への期待をいだかせるものである。 |
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(13)あとがき
| 「さいとう・たかをの劇画専科初等科コース」は、これで終了です。この本を書きはじめてから、劇画を描いたり、ストーリィーをつくっているほうがよっぽどラクだな、となんどもなんども思いました。じじつ私たち自身、劇画について勉強しなければならないことが山のようにあるのです。それほど劇画は日々、動いています。しかし、劇画の描きかたの基礎的なことは、すべてこの本に書くことができました。この本で説明したことをすっかりマスターできれば、あなたはその時から新進劇画家としてスタートできるはずです。でもマスターするだけではだめです。この本をのりこえてください。そこにあなたしか描けない新感覚のフレッシュな劇画が誕生するというわけです。先にも書いたように、劇画家になるのはかんたんです。しかし、プロの連中も口をそろえていっています。“劇画家をやめさせられないようにするのはたいへんなことだ”と。すなわち、いい作品を描きつづけていくには、たいへんな努力がいるのです。がんばってください!! |
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