「ゴルゴ13」第一話誕生 メイキング・インタビュー – その1 –

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青年が読める作品を作らなきゃダメだ

 

―1968年に小学館で『ビッグコミック』が創刊された時にまず連載されたのは「捜し屋はげ鷹登場」でした。全部で9話の連載です。

 

さいとう そんなにやりましたか。『ビッグコミック』が創刊されるずっと前から、創刊の編集長になる小西(湧之介)さんには散々「ずっと漫画を読んできた子どもたちが大人になっても読めるものを」って言ってたんですよ。でも「マンガは子どものものだ」って言われる。

 

あの頃、週刊誌がよく「最近は大学生がマンガを読んでるけど、どう思う?」って取材に来たんですよ。彼らは突然マンガを読み始めたわけじゃなくて、子どもの頃から読んでるんだと。だから今のままの作品では不満だろうから、青年が読める作品を出さなきゃダメだって講談社にも小学館にも何度も言ってたんです。

 

 

―さいとう先生が出版社より先にそういう事がわかっていたのはご自身で出版もやられていたからですか?

 

さいとう そうでしょうね。貸本向けの本を作ってましたが、読者層が普通の少年雑誌よりちょっと年上だったんですね。最初は大学生くらいを考えてました。でもだんだんそれ以上の年齢、団塊世代を掴まないといけないんだってわかってきた。人口も多いし、その読者を失うのはバカな話ですよ。大人が読んでくれる世界を作りたい、そればかり考えてたんです。

 

 

―それでやっと『ビッグコミック』が創刊される事になって、編集部からはどんな作品を描いてくださいと言われたんですか?

 

さいとう 特にそういう話はなかったです。こちらで、最初はまず明るいのがいいかなと思って「捜し屋はげ鷹登場」を描きましたね。その後小西さんから「もっと激しいものをやってほしい」と言われて、さいとう・プロの当時のメンバーみんなで相談して企画案を描き、「ゴルゴ13」になったんです。

 

 

―「激しいもの」というのはテーマですか?それとも単純にアクション表現?

 

さいとう 大人が読むに耐えられる主人公にしてほしいと言われましたね。確かに「はげ鷹」はちょっと優しすぎたかなと。明るくする必要もないなら、もっと大人向けにしよう。

 

 

―当時のメンバーというのは?

 

さいとう メインは石川フミヤス、武本サブロー、甲良幹二郎です。私とこの3人で基本的なことを考えたんですよね。

 

 

―編集者は?

 

さいとう 編集者はそこにはいないです。

 

 

 

この世界はキャラクターありき

 

―まずはキャラクターからですか?

 

さいとう そうです。大体私はそうですよ。ドラマから先に考えるとまず失敗しますね。キャラクターを完全に作っておくと、ドラマは勝手に動くんですよ。キャラクターから入るのは私はこの世界の王道だと思いますけれどね。


―失敗というのは構成先行だと小さくまとまるという事ですか?

 

さいとう そういう意味じゃなくて、主人公がぼやけてくるんですよ。主人公中心に話を考えずに、話そのものを考えてしまうと拡がらないんです。だから、キャラクターありきですね、この世界は。

 


―ではゴルゴというキャラクターはどこから作っていったんですか?


さいとう 一番最初に考えたのは「殺し屋にしよう」という事ですね。おとぎの世界だったら許されるだろうと。殺し屋にしたら勝手にどんどん案が上がってきました。最初は結構饒舌なキャラクターだったんですが、これじゃ主人公がぼやけるなと思って、主人公の事は周りの者に説明させればいいんだって気がついて、だんだんと「……」な主人公になっていきました。

 


―さいとう先生が幹になるアイデアを出して、周りの人が「こんなのはどうですか」とアイデアを出していくような感じですか。


さいとう そうですね。「もっとこういうのがいい」とか「ああいうのがいいよ」とかね。そういうのを色々と助言してくれましたね。

 


ー次に名前ですか?


さいとう いや、キャラクター(デザイン)が先ですね。名前は後です。大体そうです。

 


―ゴルゴの髪型や眉毛、目つきってそれまでのさいとう先生の主人公のキャラクターにはないパターンですよね?


さいとう そうかもしれませんね。目立つ顔っていうのかな、読者に記憶されるようなパンチのある顔にしょうと思ったんですね。

 

 

 


―いわゆるヒーロー的な主人公の顔と全然違いますよね。


さいとう 大人だったらここまでは大丈夫だろう、主人公として考えてくれるだろうという顔を考えました。

 


―三白眼でしかも黒目がすごく小さい。


さいとう こんな顔絶対ないですからね。これを人間の役者でやるのは無理ですよ(笑)。

 


―インパクトのある顔で主人公を作るというのはそれまでも意識されていたんですか?


さいとう そうですね。最初に顔をつくるのが大事なんです。時々ドラマから入りたくなるんですよ。面白いドラマが浮かんだ時とか。でも上手くいくのはほとんど主人公から作ったドラマですね。

 


―名前がついたのはどの段階ですか。


さいとう それからです。スタッフの中に、後に原作者として独立する小池(一夫)がいて、小池が「『ゴルゴ13』っていうタイトルはどうでしょう」「ゴルゴダの丘と、死刑台の13階段をくっつけて考えたんです」って。クリスチャンは13をものすごく嫌がるでしょ。それは面白いなということで「ゴルゴ13」という名前にしました。

 

 

「ゴルゴ13」第一話誕生 メイキング・インタビュー その2(近日公開) に続く

 

 

 

 

Editor & Writer

今秀生

 

※当インタビュー記事は「さいとう・たかを 劇画 大解剖」に収録されたものを抜粋して掲載しております。

 

 

サンエイムック完全保存版

さいとう・たかを 劇画 大解剖

2020年5月10日発行

発行人 星野邦久

編集人 木村斉史

発行所 株式会社三栄