第6回さいとう・たかを賞 最終選考会録

さいとう・たかを賞は、さいとう・たかをの志を受け継ぎ、分業システムによるエンターテイメントの王道をいく作品作りに挑戦する次世代の制作者たちを表彰し、その制作文化を時代に継承するために創設されました。第6回さいとう・たかを賞最終選考会は2022年11月11日に行われました。本年度も選考委員の許可を得て、最終選考での議論の模様を一部特別公開いたします。

 

●ハイレベルの最終候補作品群 「どれも今の時代を描いている」

 

――まずは総評として、第6回さいとう・たかを賞ノミネート作品をご覧になった総合的なご感想をお願いします。

 

池上遼一氏(以下、池上):
作品のモチーフなどはそれぞれ違うんですけど、レベルがすごく高い。どの作品がいいだろうっていうのを、まだちょっと迷います。どれもそれなりに「今の時代」を描いているなという感じで、感心しました。

 

 

佐藤優氏(以下、佐藤):
今までと比べて、ジャンルが2つに分かれてきたなという感じがします。
ひとつは、私が仕事をしているノンフィクションの分野を扱った、(活字の)代わりになるようなもの。『ケーキの切れない非行少年たち』『税金で買った本』ですね。学習マンガのスタイルというか、教養を入れ込んでいる。
もうひとつは、ものすごく現代的なフィクション。落としどころがあるストーリーにもとづいて作っているんじゃなくて、その瞬間の迫力なり、ほんのりとした温かさなりを楽しんでいくという…。全体ではなく、その場の見せ方というものが問われている。これは最近、YouTubeなども含め、(コンテンツの尺が)どんどん短くなってきている現象にも近い。
さいとう・たかを賞の対象となるようなスタイルで作る劇画にしても、この2つに分かれてきているのじゃないかな…という感じが、強くしました。

 

長崎尚志氏(以下、長崎):
佐藤さんがおっしゃったように、学習マンガや教養マンガが、かなり売れているみたいなんです。最近大手の出版社が学習マンガに力を入れていまして、今までマンガをやってきた編集者をそちらの方に異動させて、質の高い読める学習マンガを作ろうとしているという話を耳にしました。
僕らがマンガの世界に入ったころから、「学習マンガには可能性がある」と言われてはいたものの、なかなかうまくいってなかったんですけど…ようやく、ある種の「教科書」として楽しく読んで学べるマンガという、ひとつのジャンルとして成熟したのかなと思いながら、僕も読みました。
もうひとつ感想としては…私の感覚ではちょっとありえない始まり方をする、どうするんだろう?ってハラハラするような作品が多くてですね。一度引き込まれると面白いんですが、いわゆる私が考える「正統派」のマンガとは、違う方向性の作品が出てきたなと思いました。

 

やまさき十三氏(以下、やまさき):
僕としては、読みやすい作品と読みにくい作品に分かれました。
僕みたいな昭和世代は、まずプロローグがあって、それから(物語に)展開していくというスタイルを読み慣れているから、いきなり展開していくのは、やっぱり戸惑ってしまう。それが最近特に顕著になってきたなと思う。
ただ、『税金で買った本』については、(図書館には)僕は静かなイメージしかなかったので、あそこにそんなドラマがあったのかと。よく調べて描いていて、そこは感心しました。
これからのコミックは、僕ら世代には、さらに読みづらくなるかもしれないなという予感と…一方で、きちんと調べて描かれた、僕らにも読める作品もあって、分極してきたなという感じは、すごくしました。

 

――ありがとうございます。
ここからは、まず作品名の五十音順で個別の作品についてそれぞれご意見をいただきます。

 

◆『ウェルベルム-言葉の戦争-』(以下、『ウェルベルム』)

 

池上:
言葉が武器になるっていう設定が現代的かな。スマホ時代の中、短い言葉のやりとりみたいなものはとても「今」っぽいなと思いました。それと、知的な感じがするんですよね。これからはバトルものでも、単純な戦いじゃなくて、こういう頭を使う、哲学的なものが求められていくんじゃないかなと…そのあたりが新鮮でした。長崎先生がおっしゃったように、いろんな知識をうまくバトルの世界にはめ込んでいる。

 

長崎:
超能力者もの、対戦ものとか魔法使いの戦いものとかの、ひとつのパターンではあるんですけど、池上先生がおっしゃったように、「言葉を武器にする」という発想が、圧倒的に新しいというか。よく思いついたな、このアイデアがすごいと思うんですよ。
自分の武器になる言葉がどれかわからなくて、何か言っているうちにわかるとか、相手の言葉がわからないから逃げ回りながら推理するとか…ちょっと新しいその手の作品の変形として、実によくできていて、個人的に言うとこのマンガが一番好みなんです。

 

ただ残念ながら、まだ1巻しか出ていないということで、これからどう展開するかがわからない。だからもうちょっと、せめて2巻、3巻が出てから、また応募してきてほしいな…。これからが膨らんでいくところなので、やっぱり2巻目は少なくとも読みたいなっていうのが、正直な感想ですね。(※最終選考会実施日時点では1巻のみ発売)

 

やまさき:
選考委員としては、作品に対してフェアに(審査を)しなくちゃいけないと思うんですけど、僕はどうしても、自分が好きか、自分に合ってるかで判断してしまうところがありまして…。これはやっぱりちょっと、厳しかったんですよね、僕には…。
例えばね、ヒロインが主人公のことを「ケイジきゅん」っていう呼び方をしますよね。そこでもうちょっと、受け入れられなくて…。

 

一同:(笑)。

 

やまさき:
「言葉の戦争」の物語というテーマにそぐわなく感じてしまう。これはあくまで一例ですけど、全体としてちょっと、僕には合わなかったです。

 

佐藤:
抜群に面白いんですよ。言葉の戦争、言葉の勝負というものは実際にもありますけど、普通、そこで使われるのは名詞か形容詞なんです。「プーチンは“殺人者”だ」とか、それに対してプーチンが「西側は“悪魔崇拝者”だ」と言ったりとか、あるいは「“ひどい”奴だ」とか、とにかく戦わせるのは名詞か形容詞が一般的なので、「動詞」で勝負するという発想は、なかなか面白い。この着想は非常にいいと思うんですよね。

 

ただ僕が引っかかっちゃったのは…例えば「止まる」は思いっきり展開しましたよね。でも、「直す」も、本当はもっと使えるはずだと思うのに、何でこんなに早く、この花里真紀を殺して、終わらせてしまったのかと。このストーリーの流れからすると、おそらく1回使った動詞っていうのはもう使えないはずなので、限られた動詞をどう回していくかっていうのを、実は考えてなくて、面白く伸びそうなものを今伸ばしている最中なんじゃないかと…。
あと1、2巻分読んで、「止まる」以外でも展開できるとすごく面白いんだけど、この「止まる」だけで延々やっていくと、読者は疲れてしまうと思う。

 

◆『ケーキの切れない非行少年たち』

 

池上:
児童精神科医、医療少年院の医師の先生が原作を書いていらっしゃるから、いわゆるノンフィクションっぽいですよね。少年犯罪っていうと何か叫んだり、荒っぽい少年が喧嘩したりっていうようなイメージを持ってたんですけど、なんか抑制してるっていうかね。
いつも目が死んでますよね、この作品のキャラは。それがリアリティを感じさせるんですよね。シナリオの説得力もあるんですけど、それをさらに絵描きの表現で面白く読ませてる。少年院の実態を知る、考えさせられるような内容で良かったです。これも知識みたいなものが、どんどんうまく組み込まれて、マンガになってるっていう感じですよね。


佐藤:
私、実際に拘置所に入ってましたからね(笑)。例えば感銘を受けちゃうのは、少年院は水道の栓がついてるってこと。拘置所の水道には栓がないんですよ。飲み込んで、自傷行為をする可能性があるから。少年院っていうのは、やっぱり教育施設なんだなと思いましたね。

それでこの作品は、少年院っていうテーマと同時に、もうひとつのテーマになっているのが、偏差値。偏差値というと、例えば65とか70とかの、高いほうだけが注目されがちだけど、正規分布しているわけだから、逆の、低いほうの人たちもいるわけですよね。その人たちには、現実的にはほとんど焦点が当たらないんだけど、それゆえに彼らは社会とうまく適合できず、いじめられたり、あるいはとても若い身で妊娠したり…。この、偏差値でいう「左側」の世界が、犯罪に結びつきやすいという、とても重要な問題提起をしている。
それをマンガでいやらしくなく、等身大で見せていることで、やっぱりすごく迫力があるし、同時に社会性があると思います。

狛江に愛光女子学園っていう女子少年院があるんですよ。そこの事例では、ほとんどの子が一生懸命勉強していて、みんな規則正しい生活をして、学力も少年院の中では高くなる。でも外に出ていくと、結局帰る場所がない。それでヤクザのところに行っちゃったりとか…あるいは麻薬の売人とか、オレオレ詐欺の受け子になってしまったり。ついには自分の子どもを殺して、殺人罪で捕まってしまうこともあるんですよね。そういう、なかなか光が当たらない問題を、どうやって世の中に伝えていこうかな…と私も思っていたところで、この作品を読んだんです。

原作者自身が(原作の新潮新書版で)伝えきれなかったものを、この作品で本気で伝えようとしているんだと思いました。ただ本を預けて、劇画にしてくれっていうことじゃない。絵を描いている人も、おそらく相当の数の資料に触れているから、細部においてもリアリティがある。「死んだ目」の描写もすごく迫力がありましたね。普段は死んだような目をしている子が、急に怒って、学校の先生を殴るとか…そういう「目」の描き方も独特で。いろんな点で面白い作品だなと思いました。

 

 

長崎:
まず私は、(このタイトルと導入部分を見て)自分自身がケーキをきちんと3等分できるか?ということに、ちょっと恐怖を感じました。ああ、できるな、とは思ったんですけど…そういう部分は知識として、学習マンガのネタとしてもやっぱり面白いし、質の高い「教養マンガ」であるとは思うんです。本当に読むべき内容ですし、読んで全く損はない作品です。
ただ…ちょっと、ストーリー的には薄いかなとも思っていて。事例を淡々と描いていくという、これはこれでひとつのやり方ではあると思うんですけど…どうしても読む側として人間ドラマを期待してしまうので、その点で、さいとう・たかを賞としてはどうかなっていう部分はあります。学習マンガとしては、超A級の優れた作品だと思いますが。

 

やまさき:
フィクションとしてきちんとストーリーを作って展開を考えてもいいけど、そこを仕組んでいないところが、僕はむしろすごくいいと思いました。どの話もきれいに解決はしていないんですよね。(少年院を)出ていっても、再犯してしまったり。ここで描かれているような、少しハンディを持った子どもたちが罪を犯してしまった時に、きちんと更生できるかっていうと、なかなかできない。働くようになっても、どうしても失敗してしまう。その失敗を現場ではフォローしてもらえず、結局また悪いことをしてしまうという。そのあたりがすごく…話としてね、秀逸だなと。

 

池上:
僕も同感ですね。また戻ってくるんじゃないかな…っていう不安を抱かせながら描いているからこそ、これはリアリティがあるんじゃないかなっていう感じはするんですよね。演出も抑えた感じで、絵もストーリーも抑制的で、あまりワーッと盛り上げずに淡々と進めているから、逆に迫力があるんじゃないかな。

 

やまさき:
ある意味、世間…というか我々は、こうしたハンディを持った人たちをどう受け入れるのかっていうことを問うている。すごい作品だなと思いながら読みました。

 

長崎:
これを読むと、「犯罪者=悪い奴」という単純な話じゃないし、知能指数の問題なんかも含めて考えると、現行の罰し方でいいんだろうか?みたいなところまで(考えが)行っちゃうんですよね。そこはやっぱり、考えさせられる。

 

池上:
みんな同じ顔してるじゃないですか。主人公以外も、みんな同じような目をしてる。

 

長崎:
たぶん、別の作品でもこの作画家さんはこうなんだと思うんです。だから、この作画家をピックアップした編集者に能力があるんじゃないかと僕は思うんですけど。

 

池上:
原作を書かれた先生も、(コミックスの後書きで)「こんなにも苦しそうな表情をしていたのか」っていう感想を書いてらっしゃいますよね。絵描きとして、そのあたりは、やっぱりうまいなっていう感じがしました。

 

佐藤:
聖書に「目は心の窓」って言葉がありますけど、この作品の登場人物たちは、その「心」がどんよりとした曖昧な世界にいるっていうのが、目によく表れていますよね。暴行をした女の子が攻撃的に怒っている時の目とかも…ただ、この子は普段の目も、怒っている時の目も、どちらも死ぬ直前の魚みたいな目なんですよね。目から怒りが湧いているっていう感じでもない。

 

それで、繰り返しになりますけど…今まで犯罪者っていうと、(偏差値で言うと)真ん中より「右側」の知能犯であるとか、あるいはヤクザ者であってもそれなりの知力を使っているというイメージだったけど、そういうパターンではなくて、もし社会のあり方が違ったら罪を犯さずに済んだかもしれないのに、知的能力にハンディがあるために犯罪に巻き込まれて、どうしようもない状況になってしまって、社会に適応できない、そういう人たちを描いている。

 

我々が子どもの頃は、そういう人も、なんとなく世間の中で許容されていたじゃないですか。今はそういう人たちがどんどん追い詰められていって、犯罪者になるところまで追い込まれていってしまう。そういう問題を、劇画という形でうまく描けているなと思いました。

 


◆『税金で買った本』

 

長崎:
内容の濃さは『ケーキの切れない少年たち』のほうが上なんですけど、マンガとしては『税金で買った本』の方が優れていると個人的には思います。一応、少年の成長ものになっているんですよね。ストーリーはちょっと薄い感じはしますが、好感の持てる…少しグレかかった少年がどんどんいい子になっていくところが、なかなか面白い。コマ割りとかも上手です。私は、この作品ならこの賞の対象になるかなと見ています。

 

やまさき:
これは主人公のキャラクターが、王道の…良い「立ち方」をしていて、それがこのドラマを支えているなと思いました。そのうえで税金を払う者、図書館を利用する者、図書館を利用させる者、それぞれの微妙な立ち位置の違いを進行でうまく動かしていて、このマンガを面白く読ませてくれている。それで3巻の最後が、マンガが寄贈されたところで終わっているんですけど…結構難しい問題になるんですね。量が多いから。これどうするんだろう?と、楽しみになりました。(※ノミネート時点では3巻までの発売)

 

池上:
僕も若い頃はたまに図書館に行ったこともあったんですが、なんかしーんとしててね、つまらない所だなって感じてたんですけど…(笑)、だから、あの題材をこれだけコミカルに面白く描ける才能っていうのはすごいなと思いました。
ヤンキー少年を主人公にした成長ものとして描いているところも、新鮮なんじゃないですかね。図書館なんてリタイアした年寄りくらいしかいないもんだと思っていたけど、これを読むと、若い子も行きたくなるんじゃないですか。

 

それで本当に、なんて言うか…勉強になる。長崎先生がおっしゃっていたように、潜在的に知識欲が増えてきているんじゃないですかね、今の若い人って。
今、僕が組んでいる稲垣理一郎先生が、科学をテーマにした『Dr.STONE』で、とことんいろんなところに取材してリアルに書きましたけど、それがすごい人気になりましたからね。そういう時代になってきているんですかね。

 

佐藤:
非常にいい作品だと思います。ちょっと気になったところは、(原作の)ずいのさんが、(コミックスの)各話の間で、必ず釈明をしている。作中で本のページを破いてしおりにする人のエピソードを書いているけど、実際はこういう人はいませんよとか。私は、リアリズムに徹するんであれば、実際には起きていないことは、書かないほうがいいと思う。

 

僕が大学で教えている学生とか、20代から30代前半くらいの役人とかに聞いてみたら、僕らの世代と比べて図書館によく行ってる。どうしてかというと、可処分所得が少なくなっているから。だからちょっと高価な本になると、本屋に行って買う前に、まず1回図書館で読んでから、というのが基準になっているようです。

 

あと、この先(物語の展開で)興味深いのは、寄贈本の選書の基準なんです。私はね、寄贈本でできている図書館の究極形を知ってるんですよ。それが、東京拘置所の図書館。こういう所には、聖書とか宗教書とか、矯正のための本が多くあるかと思ったら、全然違う。全体の本の半分が犯罪小説。残りの4分の1くらいはエッチな本で、4分の1はヤクザのしきたりの本です。それで取り調べの検察官に聞いてみた。「何でこういうふうになってるのか。矯正効果全然ないじゃない」と。すると、未決勾留だから「お客さん」の需要に合わせて本を選ぶんだそうです。

 

(図書館には)もちろんマンガの需要もある。公共図書館が「お客さん本意」で需要のある本を提供していったら、無料で読める立ち読み屋さんみたいになってしまって、我々作家の書籍の売り上げにも大きく響く。図書館と、我々作品を作っている側との間には、利益相反もあるわけです。そういうことを考えるきっかけにもなる作品だなと思いました。そのあたりの問題には、必ずこの作品の中で突き当たっていくはずですから。

 

 

◆『来迎國/らいごうのくに』


池上:
この作品は、ひきこもり少年の妄想が現実化してくるような話で、荒唐無稽な感じではあるんだけど、突然バケモノ的なものが襲ってくるっていうのは、現実の日本の、いつどうなるかわからないという緊迫感みたいなものの暗喩というか、メタファーとして読むと、すごく恐ろしい。リアリティのある戦争物語だなという印象でした。
で、その物語をコミカルに処理しているところが、なんか異才だなって感じがするんですね。演出なんかも、どこかで茶化してるというか。そこが良かったです。

 

佐藤:
すごい才能ではあることは間違いないと思うんですよ。読み始めると引き込まれて、あっという間に2巻続けて読んじゃいますから。ただ、これは、世代的なギャップかな…。やっぱり私も、歳をとったのかもしれない。この世界の中に入っていって「面白い」って思うよりも、ちょっとついていけないなっていう感じのほうが強くなっちゃう。
むしろ、この作品に共感を覚える読者たちの声を聞いてみたいなと思いました。長崎さんあたり、そのへん、面白さをよく言語化できると思うんですけど。

 

長崎:
ひきこもりが密かに修行してて、そこに時々怪物が襲ってくるっていうのは、ありえないけど面白い設定なんですよ。だから私も才能ある人だなと思ったんです。でも、ストーリーがどっちの方向に行くかが、まだ2巻では読めないんですよ。作家さんが決めてあるのか、まだ決めていないのかもわからないですけど、どの手の話になるのか分類ができないと、佐藤さんが言われたように、やっぱり…戸惑うんですよね。まだ評価できるところまで、物語が進んでいない。この作品の「顔」がまだ見えないっていう感じがする。
賞の審査においては、もうちょっと先を見ないとわからないっていうのが本音なんですよ。あと2巻分出て、4巻ぐらいにならないと、この作品の面白さがどこにあるのかがわからない。

 

佐藤:
防衛省がどうとか、内閣官房がどうとか、実在の組織を入れちゃうと、どうしてもリアリティの問題を考えさせられてしまうので…本当は全部架空にしちゃえばいいんだよね。

 

池上:
なんか不思議な感覚に襲われますよね。荒唐無稽な幻覚や妄想がワーッと出てくる一方で、「防衛相」とかのリアルな要素が、冒頭で出てきたりするから。それがまた、この作品の大きさを感じさせますけど。どうなるのかなーって。

 

やまさき:
絵も迫力あるし、構想も大きいというのはどうやらわかるんだけど、僕はついていけなかったですね。今後の展開としては「今」をリアルにという方向で、分断された日本、内戦、みたいな形になっていくのかなと思うけど、やっぱり、もうひとつリアリティを感じないっていうか。

 

佐藤:
設定自体は面白いですよね。北海道と沖縄が残っていて、本州が消えちゃった世界の話で。歴史的に言うと、我々がスサノオの世界に行っちゃったみたいな。

 

池上:
長崎先生がおっしゃったように、ものすごいスケールの大きい話になる可能性もあるなと思います。

 


◆『私の息子が異世界転生したっぽいフルver.』(以下、『私の息子が異世界転生したっぽい』)

 

佐藤:
原作者の方がSNSの世界から参入してきたっていうところがまず面白い。さらに出版界に入る人で、いわゆるマイルドヤンキー層の人っていうのは、あまりいないという点からも。
藤野英人さんという投資家が『ヤンキーの虎』という本で書いていますが、実際に日本の経済を支えているのは、土建業の2世や3世で、本業がうまくいかずに介護施設を作ったり、ラブホテルを作ったり、あるいは自動車整備工場をやったり、パン屋さんをやったり…そういうところで巨大なビジネスをやっている人たち――彼らを藤野さんは「ヤンキーの虎」と呼んでいるんですが――こういう人たちだというんですね。(『私の息子が異世界転生したっぽい』は)まさに、この「ヤンキーの虎」たちの世界なんですよね。本当に日本の経済を下支えしているものは、東京の投資銀行とかコンサル会社のエリートじゃなくて、「ヤンキーの虎」たちのネットワークだというのが、すごくよく出てると思う。参入障壁のない、SNS出身の原作者ならではの題材なのかなと思いました。一方で、「異世界転生」というオタク的な題材にしても…この「オタク」も最初の世代はもう50代以上になっていて、社会を支えているわけで。「普段我々からは見えていないけれど、実は主流派になっている人たち」の世界をうまく描いているなと思って、私はすごく面白いと思いました。なるほど、こういう感覚で友達のネットワークを大切にするんだとか、親子の関係はいいんだなとか。今の日本の姿が見える気がして、とっても面白かったです。
ただ、ストーリーということになると、もう少し見たいなという感じはします。

 

長崎:
冒頭の「私の息子が異世界転生した」っていうのを読んだ時点で、僕はもう無理だ、駄目だ…と思いながら読み進めたんですけど(笑)、ずっと読んでいくとハマってしまったんですよ。絵が上手なのと、構成も上手い。物語の作り方は特殊だけど、ちゃんと「わかってる」人が書いているように思います。
それと、段々この(堂原智太と葉山美央の)2人の関係が、ちょっと好ましくて、いい感じに思えてきた。私としてはこれが一番、今回の賞にふさわしいと思いました。原作の人も段々成熟してきている感じがするんで、期待しています。

 

 

池上:
こういう転生ものって昔からあって、それなりに読者やファンは多いジャンルですけど、それをうまく使って、上辺はあまり深刻じゃなさそうにしながら、子どもを亡くした母親の喪失感や、ものすごい悲しみみたいなものをうまく描いてますよね。

 

彼女(美央)の気持ちがわかるみたいなこと言っている主人公に対して、3巻で彼女が「本当に私の言うことを信じてくれてるんだよね」って言った時に、(主人公は)答えられないじゃないですか。このシーン、ものすごく静かで、迫力がすごくて、印象的で…素晴らしいなと思いました。子どもを亡くした母親の深刻な気持ちを、本当によく描いているなという感じがします。それまで同情していた男が、結局「そうだよ」と軽く言えなくなってしまうような追及の仕方もうまいなと思いました。

 

やまさき:
僕は「異世界」や「転生」というと、その段階で苦手と思ってしまうほうなんですけど…この作品は、主人公の女性と青年のナイーブなやりとりが、僕の知り合いが実際に経験したことと似ている部分もあったりして、面白く読みました。この2人の関係も含めて、まだまだ面白く展開しそうだと思っています。

 

――ありがとうございました。ひととおり評価を出し合ったところで、ここからは絞り込んで議論を進めていただければと思います。

 

佐藤:
今回も力作揃いですね。

 

池上:
みんなレベルが高い。相当専門的な知識を注ぎ込んで書いているから。

 

佐藤:
僕、ノンフィクション関係で2つ(審査員を)やってるでしょう。ひとつは去年、該当作なしでした。もう一つのほうでも、「なんでこれが下読みから上がってくる?」と思うような作品が必ず2つくらいはあるんだけども、ここ(さいとう・たかを賞)では、それはないのよね。裏返して言うと、日本のクリエイティビティの強い部分が、今はもうマンガ・劇画に集まってるんだね。

 

池上:
やっぱり、オリジナルでストーリーも絵も(ひとりの作家が)描く作品と、原作を別の人が描く作品との違いは、顕著に出てきてるんじゃないですかね。原作別の作品っていうのは、かなりエキスパートな人がシナリオを書くようになってきている気がします。

 

佐藤:
確かにそうですね。しかも、原作の本を渡して(描いてもらう)っていう形では、もう通用しなくて、原作をもう1回練り直して、ストーリーを組み立てて、場合によっては落としどころも違うような、全く別の作品を作るつもりでやらないといけない。そうじゃないと、こっち(マンガ)の世界では生き残れないんでしょうね。

 


◆『税金で買った本』『ケーキの切れない非行少年たち』『私の息子が異世界転生したっぽい』

 

――評価を総合的に見て、『ウェルベルム』『来迎國』は次回に期待かなというところで…今回は、『税金で買った本』『ケーキの切れない非行少年たち』『私の息子が異世界転生したっぽい』の3作品の中でさらに検討していただければと思います。

 

池上:
僕は『ケーキの切れない非行少年たち』ですね。

 

佐藤:
『私の息子が異世界転生したっぽい』と『ケーキの切れない非行少年たち』が同じ位置で並んでおります。『税金で買った本』が一段下がるのは、やはりその、リアリズムに徹するんであれば実態と異なることは描かないほうがいい、という点で。
それで、その2作だと、完成度としては『ケーキの切れない~』のほうが高いんですよ。ただ、『私の息子が~』は本当にマイルドヤンキー(の世界)と、原作者の、SNSという草の根から、ものすごい競争をかき分けて上がってきた世界(を表している)。ここに、私のような年寄りにはわからない、新しい世代の共感というものがあると思うんで…この作品に賞を与えることで、そういうジャンルの原作と作画を結びつけていく取り組みをエンカレッジするかもしれないとか、そういうことも考えていて…まだ決めきれないです。

 

長崎:
みなさんの説得力あるお話を聞いて、揺らいではいるんですけど…僕は一応、初志貫徹で『私の息子が異世界転生したっぽい』と『ケーキの切れない非行少年たち』が候補です。

 

やまさき:
佐藤さんのお話を聞くと、やっぱり『私の息子が異世界転生したっぽい』も気になりますが…僕は『ケーキの切れない非行少年たち』を一番手に推したいと思ってます。

 

池上:
(『ケーキの切れない非行少年たち』は)今までこんなマンガ読んだことないっていう感じがあるんです。淡々と描いてる演出なんですけど。主人公の死んだような目が訴えてきているものっていうのを、何かすごくリアルで新鮮だなっていう感じがしました。

 

他の作品は、ものすごくよくできていると思うんですけど…ドラマツルギーから言えば、今までに読んだことがある感じがするんですよね。今までのマンガからひとつ抜けたような感じはしないです。逆に言うと、『ケーキの切れない~』は、今までちょっと読んだことがない、ノンフィクションっぽいというか、嘘のないものをマンガ化してきているなっていう感じがして、これはすごいなと。さいとう先生は「脚本」にあくまでこだわってらっしゃったけど、この作品なんて、(脚本家の)専門的な知識がないと絶対描けないものだなっていう気がしますね。これを読むと、今後のマンガって、もっとすごく広がっていくんじゃないかなという感じがするんですよ。

 

やまさき:
さいとう先生の掲げていたことで言うと、エンタメ(娯楽)性という観点からは、『ケーキの切れない非行少年たち』は、社会に対してきつい問いを発している作品ではある。

 

 

池上:
そのあたりはもう、ボーダレスになってきているんじゃないですかね。これはこれでエンタテインメントになってきているんじゃないかなという感じもしないでもない。

 

長崎:
…僕はこれ、やっぱり、ストーリー性がちょっと…見えないんですよ。よくできたノンフィクションマンガっていう感じがしてしまって。

 

佐藤:
臨床医の世界なんですよね。一人一人の症例があって、カルテがあって、こういうことがあったって…それはたしかに面白い。で、これが研究医だったら、そこから普遍的な何かを導き出してくる。あるいは基礎研究だったら、何か理論的なものを持ってきて、それが一種のストーリー性になる。この作品では、それは確かにないんですよね。

 

長崎:
優れた作品であることについては間違いないんですけど。
僕の考え方が古いもんで…エンタテインメントっていう方向からみると、(その要素は)薄いような気がしていて。否定はできないけどどうしても…少し抵抗感があるんです

 

池上:
たとえば『税金で買った本』は、十分エンタテインメント化してるって感じしますよね。

 

長崎:
ええ。それで、(『ケーキの切れない非行少年たち』は)新潮社じゃないと生まれないマンガだと思っていて。『税金で買った本』はマンガの論法を知っている編集者が手がけている。新潮社はやっぱりどこか小説志向やノンフィクション志向が強くて、そうやって編み出された作品という意味でも、すごく評価はするんですけど…こういう作品ばかりがこの先この賞に出てきちゃうと、やっぱりそれはちょっと違うような気がするんですよ。

 

佐藤:
良い子の読むべきマンガ、文部科学省推薦みたいな感じに…。

 

長崎:
はい。それはどうなのかなって。つまらないわけでは決してないし、よくできてるとは思うんですけど。

 

佐藤:
別の視点で考えると…シリーズ累計140万部(2022年11月時点)ってことで、賞とは関係ないところで、社会的な評価をすでに受けている作品なわけですよね。

 

池上:
結局それだけ、ここに描かれているような息子さんや娘さんを抱えたご家族が多いんじゃないですかね。

 

佐藤:
おっしゃる通りだと思います。だから、この中で悲劇的になりうるのは、一種の「“ビリギャル”シンドローム」みたいな感じというか…いい塾に入れれば成績を上げることができるけど、結局罪を犯すような子になってしまうっていうのは、「ビリギャル」と裏表ですよね。恵まれた家庭の子でもそれはありうる。さっき言った偏差値の「左側」のほうですよね。それは確かに、今までみんな見ようとしない世界だった。

 

長崎:
優れた作品だとは思いますし、圧倒的にみなさんが評価されるのであれば、僕も引く準備はあるんですが。ただ、そのストーリー性の部分が引っかかって、僕はやっぱり…。

 

池上:
『私の息子が異世界転生したっぽい』ですか。でも、これもやっぱり素晴らしいなと僕も思うんですよね。

 

長崎:
話をうまく伝えてきているんですよね。

 

池上:
どんどん追い詰められていく母親の気持ちっていうのが、ものすごく出てるなと。

 

長崎:
ただ、『ケーキの切れない非行少年たち』の、新潮社らしさっていうところを評価するのもありだとは思います。

 

池上:
このあたりの作品は、読者はどういう人が多いんですかね? 

 

佐藤:
『税金で買った本』は、若い人にも広がっている感じですよね。こっち(『ケーキの切れない非行少年たち』)は、若い子が必死になって読んでいる感じはしない。自分の息子や娘のことで悩みだしているくらいの人が…。

 

池上:
『ケーキの切れない~』(の読者)は、そういうお子さんを抱えている親御さんがやっぱり多いんでしょうね。

 

やまさき:
ただ、障がい者の関係者が読むんだっていう断定の仕方は違うとは思います。むしろ「健常者」の人に、こういう少年たちがいるっていうことを知ってほしいのだと思う。

 

佐藤:
真面目な読み方だとそうなんだけども、不真面目な読み方だと「異界探訪」だよね。自分たちが行かないような世界。それが外国の遠いところにあるんじゃなくて、日本の中にもある。一種のこわいもの見たさみたいな感じで、そこを覗いてみるっていう…。

 

池上:
『ケーキの切れない~』は、(「第3回さいとう・たかを賞」の最終候補作品に選ばれた)『前科者』ともちょっと近いけど、全然違うところは、罪を犯した少年たちがみんな同じ目をしているという演出とか。これはちょっと小説とか、他の表現では味わえない。

 

佐藤:
『前科者』だと保護司自身が問題を抱えていて、どんどん成長していく、一つの役回しになっているっていう物語の面白さがありますよね。(『ケーキの切れない非行少年たち』に)出てくる人には、そういう意味での物語の面白さはない。頭出しで登場した人で、もう1回出てくる人はたぶんいないだろうと思うし。

 

長崎:
キャラクターにはなってないですね。

 

佐藤:
だから、キャラクターを立てないっていう形の作りなんですよね。

 

長崎:
それはありだとは思うんですよ。ありだと思うんだけど…。

 

佐藤:
キャラクターを立てないって、裏返すと、社会構造とかの問題という形になってくるんで…そうなるとやっぱり、ちょっと理屈っぽいんだよね。

 

長崎:
優れた作品ではあるんですよ。本当にちょっと抵抗感があるだけで。こういうのもありではあるけど、他にもいい作品があるって思ってしまっていて。

 

池上:
去年の『Shrink~精神科医ヨワイ〜』も、こういうものをテーマにした話でしたよね。やわらかな絵と主人公の柔らかい性格が患者の気を楽にさせるっていう世界を、うまく作っていた。

 

長崎:
あれが(賞を)取ったのもあって、こういうタイプの作品が増えたのかもしれないですね。
で、『ケーキの切れない非行少年たち』も『私の息子が異世界転生したっぽい』も、「これに出すの、さいとう・たかを賞は?」っていう感じで、意外性はあると思います。

 

佐藤:
長崎さんの指摘でわかったのは、(『ケーキの切れない非行少年たち』の世界は)『Shrink~精神科医ヨワイ〜』と連続してるんですね。
あとは、コマ割りとか技法の点ではどうなんでしょうか、この2作(『ケーキの切れない非行少年たち』『私の息子が異世界転生したっぽい』)を比べると。

 

長崎:
『ケーキの切れない~』は、わかりやすいけど、そんなに技巧を凝らしては見えない。『私の息子が~』は、わかりやすい、いいコマ割りをしてるなと。ただそれは主観なので…両方ともうまいですよ。これはむしろ、池上先生にお聞きしたいです。

 

池上:
僕は『ケーキの切れない~』のほうがうまいと思う。なぜかというと…『私の息子が~』は、絵自体は、見たことあるんですよね。物語としても、すごくよくできているんですけど、演出的なものは新鮮ではないんです。今までみんなが描いてきた既成の演出をうまく使って、感動させている。それに比べると『ケーキの切れない~』は、既存の作品とは全くカテゴリーが違う、誰も読んだことないやり方で、しかもそれが読者に受け入れられているっていうのがね。

 

長崎:
なるほど。

 

池上:
(『ケーキの切れない~』は)構図に凝っているわけでもないし、要するに日常的に普通に見る角度なんですけど、それがまたこの物語のリアリティを高めているというか…そこらへんは考えてるなあっていうのは、絵描きとして感心しました。
何人も少年たちが出てくるんだけど、みんな同じ顔してるじゃないですか。みんな同じ無表情で。

 

長崎:
僕が気になるのは、医者もちょっと「死んだ目」なんですよ、やっぱりこれは、作画家がそもそもこういう絵なんじゃないか?って。

 

やまさき:
この手の主人公で表情を豊かに作っちゃうと、物語に起承転結ができすぎちゃうから。無表情のほうが、よりリアル感がある。だから、ちゃんと狙って無表情にはしてますよね。

 

池上:
このマンガのこの絵だから、リアリズムを感じさせる。これが、この人(作画家)がテクニックで計算してやっているのかどうかはわからないけど、感心しましたけどね。

 

長崎:
元々こういう絵なんだとすれば、この作画家をピックアップした編集者に力があるということですね。

 

佐藤:
表情を描かないことによって、逆説的にメッセージを出すことに成功しているってことですね。

 

池上:
浄瑠璃とか能とかの世界に近いかもしれないですね。人形や面の表情はひとつしかないんだけど、見ているうちに表情が見えてくるじゃないですか。浄瑠璃の世話物なんか、泣いたり笑ったり怒ったりしている表情が見えてくる。

 


◆最終候補『ケーキの切れない非行少年たち』『私の息子が異世界転生したっぽい』

 

佐藤:
…そうすると、総合的に判断して『ケーキの切れない非行少年たち』かな。
重要なのは、『税金で買った本』や『私の息子が異世界転生したっぽい』の原作者と作画家に対して、どういう基準で今回入らなかったのかっていうことが、きちんと説明できてることなんで、その意味では議論が尽くされたと思うんですけど。

 

長崎:
あくまで僕は『私の息子が異世界転生したっぽい』を推しますけど、こっち(『ケーキの切れない~』)が優れてないとはもちろん思わないので。同等の評価で、単純に僕は『私の息子が~』が「面白い」と思ったというだけで。
ただ、さっき池上先生がおっしゃったように、「信じてくれてるんだよね」って言われた時に、主人公が答えられなかったシーン。あそこは、すごく優れていると思った。

 

池上:
すごい。あそこが一番印象に残りますね。静かな迫力で、強い喪失感があって。

 

佐藤:
なんか、3巻から質が変わっている感じがしますよね。

 

長崎:
そう。うまくなってきているんですよね。原作も絵も上達していってるんですよ。

 

やまさき:
後から良くなったっていう言い方をすればいいのかな。最初はそういう喪失感とかは、本当になかったから。

 

長崎:
そうですよね。2巻あたり、主人公が実家に帰るあたりから面白くなってきた。それで3巻で、実に面白いなと。

 

池上:
今後どうなるのかなっていうのは、期待はできますね。
マンガって、なんて言うかな…感動させられたりとか、思わず涙してしまうっていうシーンがあったほうが、やっぱりいいですよね。

 

長崎:
そうなんですよ。僕はやっぱりちょっと古いんで、そうなっちゃう。

 

池上:
『ケーキの切れない~』はリアリティはあるんですけど、うわーって思わず涙してしまうようなシーンだったり、ドラマ性はあまりないからね。

 

佐藤:
しかもこれ、「異世界転生」ってタイトルに入れているけど、果たして本当に異世界転生させるのか、そんなものはないっていう終わらせ方になるのか…そこが見えないところも面白いですよね。

 

長崎:
いずれにしても、自分が作家として勝負するジャンルではないんで、客観的に見たうえで、僕は『私の息子が~』を推しているんですけれども、『ケーキの切れない~』を否定する立場でもない…っていうところになっちゃうんですよね。議論を尽くしましたし、もう、これは多数決でいきましょう。

 

――では多数決ということで、『ケーキの切れない非行少年たち』を推すという方は挙手をお願いします。

 

(池上・佐藤・やまさき、挙手)

 

――では3票が入りましたので、第6回さいとう・たかを賞受賞作は『ケーキの切れない非行少年たち』とさせていただければと思います。長時間にわたる議論、ありがとうございました。

 

【了】

 

執筆:bookish
編集:鈴木史恵