さいとう・たかを賞は、さいとう・たかをの志を受け継ぎ、分業システムによるエンタテインメントの王道をいく作品作りに挑戦する次世代の制作者たちを表彰し、その制作文化を次代に継承するために創設されました。
第9回さいとう・たかを賞最終選考会は2025年11月13日に行われました。本年度も選考委員の許可を得て、最終選考での議論の模様を一部特別公開いたします。

◆第9回さいとう・たかを賞ノミネート作品
『陰摩羅ぽんぽこ』
(原作:伊藤尋也、作画:八月薫 リイド社 コミック乱掲載)
『ガス灯野良犬探偵団』
(原作:青崎有吾、作画:松原利光 集英社 週刊ヤングジャンプ掲載)
『父を焼く』
(原作:宮部喜光、作画:山本おさむ 小学館 ビッグコミックオリジナル掲載)
『ふつうの軽音部』
(原作:クワハリ、作画:出内テツオ 集英社 少年ジャンプ+掲載)

――まずは候補作全体に関しての所感を伺えればと思います。
佐藤優:
非常に面白かったです。年々、候補作の幅が広がっている感じがしますよね。シリアスなテーマの『父を焼く』、お色気路線の『陰摩羅ぽんぽこ』、逆に一切そういう要素を排除している『ふつうの軽音部』と、ジャンルが多岐にわたっている。その中で、作画と原作のコンビネーション、そこに関与する編集者の役割という観点で見ると、どれもよくできている。年々、レベルが上がっていると感じました。そしてそこには、やはりこの「さいとう・たかを賞」が影響している。分業体制の作品を評価するというのはこの賞が唯一ですから、分業で作品を作っている人の多くが、この賞を意識しているのかなとも思いました。
長崎尚志:
まず『陰摩羅ぽんぽこ』については、とにかく抜群に絵が上手いというのはあるんですが、このコンビで、例えばシリアスなものとか、もっといい作品を作れるんじゃないかなと思いました。非常に面白いんですけど、実力を出し切っていない感じがしています。『ガス灯野良犬探偵団』は、キャラクター設定もいいし、絵も構成も上手い。エンタテインメントとしては今回、最も高く評価しています。…ですが、『父を焼く』、これがとにかく、すごい作品でね。内容も面白いし、忘れられかけている昭和の貧困や地方格差といったものを記録している、そういう意味でマンガ史にとどめるべき作品だと思いました。ただ、これによって「さいとう・たかを賞」の色が決まってしまうのは――それくらいの作品なので――、ちょっとどうなのかと考えていたところです。『ふつうの軽音部』も読者として読んでしまうような魅力があります。4巻から特に、原作者さんとマンガ家さんの息が合ってきていて。とても面白い、実にすぐれた作品です。
秋本治:
今回、初めて選考に参加させていただきました。子どもの頃からさいとう先生のファンで、その名を冠する賞の選考をさせていただくというのはとても嬉しいし、どんな作品が候補になるのか楽しみにしていました。

まず『ふつうの軽音部』は、非常にまとまっているし、上手い作品ではあるんですが、ちょっと「さいとう・たかを賞」の感じではないかな、と思いました。『陰摩羅ぽんぽこ』は絵柄という点ではこの賞のイメージなのかなと思いましたが、長崎さんもおっしゃったように、この画力でお色気路線じゃない、文学的な作品なんかも見てみたいなと。それから『父を焼く』は、たしかに重いテーマを扱っていてすごい作品なんですが、さいとう先生はやはりエンタテインメントが好きで、それをテーマにしていた方だから、非常に心に刺さる作品ではあるんですが、「さいとう・たかを賞」としてはどうかな、という思いがあります。そういう意味で一番賞にふさわしいかなと思うのが『ガス灯野良犬探偵団』で、僕は今回、これを推したいと思っています。
小山ゆう:
『陰摩羅ぽんぽこ』に関しては、八月さんの絵の上手さというのは昔から知っていますし、僕自身、参考にさせてもらったこともあるくらいなんですが、やはりこの作品がこの賞にふさわしいかと考えると、クエスチョンマークが出てしまうところかなと。で、『ガス灯野良犬探偵団』は今回、一番高い評価を受けるだろうと僕も思っていました。絵の緻密さもすごいし、構成、構図、全て上手いし。…なんですけど、『父を焼く』を読んだらですね、この作品に賞を与えないのは、あまりにももったいないというか…。

たぶん僕が高齢者だからだとも思うんですけど、とにかく、一番感情移入できて。逆に『ふつうの軽音部』は、きっと若い人にはすごく共感できるエピソードが描かれているんだろうなと想像はできるんですが、ちょっと読むのに苦労しました。とにかく、エンタテインメントという意味では『ガス灯』だと思いますが、『父を焼く』をなんとか…!と、強く思っているところです。
――ここからは、作品名の五十音順で1作品ごとに検討していければと思います。
『陰摩羅ぽんぽこ』
(原作:伊藤尋也、作画:八月薫 リイド社 コミック乱掲載)

佐藤:
奇想天外さとお色気で思いっきり勝負している作品ですね。コミックは最近、真面目なものが多すぎる気もしているんですが、この作品では本来コミックが持っていた猥雑な要素が生かされていて、さいとう先生はそういったことも非常に面白がっていましたから、そこは評価できると思います。
秋本:
本当に女性が上手でね。さいとう先生も色っぽいものは時代劇でも結構描かれていたから、そういう意味ではナシではないんだけど、例えば、その色っぽい女性が実は敵の…みたいに展開していくのではなく、その(色っぽい)要素が全編になっちゃってるんで。もう少しこう、大人っぽいものを描いてくれるといいのかなと思うんですよね。
小山:
八月さんの絵の上手さが、これではちょっと活かしきれていないと思うんですよ。特に女体を描かせたら本当に上手いんです。顔の表現もすごくいいしね。
佐藤:
最初に作品の枠を決めてしまっていると思うんです。非常に単純な勧善懲悪ものということで、ある意味、ストーリーでは勝負せずに、瞬間瞬間の面白さを味わう作品だと。そのうえで皆さんのお話を伺っていると、たしかにこの絵の力量がある方は、もっとシリアスなものとか、あるいは人情ものでもいいし、同じ江戸時代の水茶屋を舞台にするにしても、そういう作品のほうが、歴史に残るにはふさわしいかなと。

つまり、作品に一つの賞を与えるということは、そこがその人の、芸術家としての一つの頂点であることを示すということなんですね。それを考えると、この作品でそれをするのは、作画家・原作者の双方に対して、ちょっと失礼かなと。このお二人で、もっと完成度が高くて、かつ面白い作品ができるんじゃないかという感じがしました。そういう意味で、よくできている作品だけど、賞を出すには二の足を踏むかなというところです。
長崎:
同じエロでも、例えば山田風太郎が持っているエロさみたいなものってあるじゃないですか。ああいうものを、この原作の伊藤さんがもし書けるなら面白いと思う。それともう一つ、この絵には魔術とかが出てこない、リアルなストーリーのほうが合うと僕は思うんです。だから、これはこれで完成しているとは思いますが、この二人で賞に値する作品はこれではない、というのが正直な意見です。
『ガス灯野良犬探偵団』
(原作:青崎有吾、作画:松原利光 集英社 週刊ヤングジャンプ掲載)

佐藤:
これはイギリスの社会のことを、現代の格差も含めて非常によく調べていますね。(コナン・ドイルの)原作だけじゃなく、BBCのドラマも含めてよく調査していると思うのと、プラス、「少年探偵団」シリーズの「チンピラ別働隊」を彷彿とさせるようなところもあるので、江戸川乱歩も結構読んでいる方かな。とにかくいろんな要素が盛り込まれている作品だと思いました。
長崎:
やっぱり絵が上手いし、話もどこに転がるのかわからない面白さがある。いわゆる原典があるという点でちょっとひっかかりはしたんですが、最近のシャーロック・ホームズものは、原典のどこをどう変えるかっていう面白さがあって、あえてそれに挑戦していると思うんです。BBCのドラマでは現代に置き換えていましたが、この作品では逆に19世紀を舞台にしているという工夫もあるし、エンタテインメントとして一番すぐれているというのは間違いないと思います。

秋本:
これ、僕がびっくりしたのは、絵の完成度もさることながら、台詞が少ないんですよ。探偵ものというのは一般的に、どうしても台詞ありきの会話劇で動いていくものが多いのに、この作品はキャラクターで引っ張っている。キャラクターがみんないきいきしているんですよね。その一方で、やっぱり小説を読む人も納得するくらいの内容の濃さがあるし、社会の上層と下層という要素だったり、イギリスの情勢だったり、本当にいろんなものを盛り込んでいて。これはやっぱり、作画を専門にやる人、ストーリーを専門にやる人、それから編集の人もかなりしっかりサポートしていると思うんですよね。さいとう先生の目指した、みんなで作り上げていく、そして誰もが楽しめるエンタテインメントという意味では、この作品が一番近いと思います。
小山:
「さいとう・たかを賞」だからエンタテインメントなんだと言われれば、それはもうこの作品だと思います。皆さん、きっとこの作品を選ぶだろうなと思っていたし、それにふさわしい作品で、異存はないんです。ただ、どうしても僕は、『父を焼く』みたいな作品が賞を取るんだってことも、見せたほうがいいんじゃないかなと…。

佐藤:
一つあるのは、1を10に膨らませる仕事と、0を1にしていく仕事というのは、やはり同じ「原作」と言っても違いがあると思います。もう一つ、どうもイギリスの雰囲気とちょっと合わないなと思うところがあって、これは明らかにヤクザ小説の影響が入っているんですよ。ギャング団たちが縄張りを決めて、その中をそれぞれが仕切っているというのは、基本的にヤクザなんですよね、マフィアというよりも。そこがちょっと、違和感がある感じが私はした。
長崎:
やっぱり「ヤングジャンプ」で当てようと思ったら、そういう方向に行くと思いますよ。
佐藤:
なるほどね。つまり、読者をすごく意識していますよね。それはある意味でとても正しいんだけど、その点『父を焼く』は、読者をそれほど意識していないんじゃないかと思う。その両者の違いは、もう趣味の問題になるのかな。でも、そこに迫力の差が出てくる気がしています。
『父を焼く』
(原作:宮部喜光、作画:山本おさむ 小学館 ビッグコミックオリジナル掲載)

秋本:
僕はこの作品、読むのに一番時間がかかりました。『ふつうの軽音部』はさらっと1日で7巻まで読めちゃったけど、これは1冊読むのに2日かかった。見ていて本当につらいんですよ。僕ら世代にはどっしり来ますから。最初のシーン、いやタイトルと表紙からしてちょっとつらそうだなと思ったんですけど。現地で取材して描かれているところなんかも含めて、描写がとても細かくて。それで最後まで重いままじゃなく、ラストが綺麗なのも良かったですね。日本人の生き方みたいなものがよく出ていると思いました。ただやはり、これが受賞することで、「特別な作品が受賞するんだ」という感じになってしまうと、賞としてはどうかなという思いはあります。
長崎:
長くこの賞の選考委員をやっていると、どの作品に票が集まるかを勝手に予測しながら臨むんですが、その中で、僕は今回、『ガス灯野良犬探偵団』と『ふつうの軽音部』が残るだろうと思ったんです。ただ、そうなった時に、じゃあ『父を焼く』に賞を出せないのか?と考えると…この作品を落とすという選択肢が、僕にはなかったです。だから、もし他の作品が受賞するなら、この作品は特別賞のような形にできないか、みたいなことを言うつもりでいました。
小山:
自分自身の感覚と、選考委員として「一般の読者はこうだろうな」という想像との両方で見るんだけど、『父を焼く』は自分の感覚としては一番ぐっと来たし、やはり、これに賞を与えられないのはあまりに残念というか。それこそ特別賞という形でも…どうでしょう?

長崎:
そうなんですよね。この作品はどうしても落とせないですよ。山本おさむさんというマンガ家の実力…実力って偉そうに言えないんですけど、そういうものも改めて感じました。
佐藤:
まず、特別賞というのはやらないほうがいいと思います。それは「さいとう・たかを賞には値しないけれども、良かったら」という周辺的なものになってしまうと思うので、それをするならストレートに1作品を評価するほうがいいと思う。それから、ここまで徹底してシリアスな作品というのは、過去8回でも出てきていませんよね。そういう意味では、むしろこの作品に賞を与えることは、賞の幅を広げることにもなると思います。
それでこの作品は、やはり細部のリアリティがすごくあるんです。日本の生活保護の捕捉率は2割程度しかないんですが、「お金じゃなくても、別のもので支援できないか」というのは、実際に家族が聞かれることの一つなんですよね。そうして送った米が、売られて酒に変えられてしまうとか、そのあたりのリアリティがすごい。
それと、隠れたもう一つのテーマとして大事なのは、「娘が大学を卒業して就職する」というところだと思うんです。作品の中ではほとんど描かれていないけど、主人公が貧困の連鎖を断ち切るために、心を鬼にして両親への仕送りをせず、娘を大切に育てていった。こうした、物語に描かれていないところが想像できるんですよね。

さらに、いつもひどい目に遭っていたお母さんのほうが、最晩年にはモンスター化してしまう。この物語の中にはいい人も悪い人もいない。たしかに人間ってそうだよね。完全にいい人間も、完全に悪い人間もいない。そうして人が抱えているぐちゃぐちゃしたものが、最後に樹木葬という形で一種の和解の物語になっている。悲しみ、貧しさ、不幸にそこで区切りをつけて、娘にはそれを経験させないという形で継承した。そういう重層的な、描かれていない物語が読めるところが強いなあと思いました。
でもこれ、小説だったらね、ここまで面白くない。あの蛆や蝿のグロテスクな絵があって、でもそこで読者に読み進めるのをやめさせない、先を見たいと思わせる。これもすごい力だなと思うんですよね。だからやっぱり、私はこの作品に賞を出したいですね。
長崎:
この作品は「ビッグコミックオリジナル」での連載だったんですが、あの雑誌の底力みたいなものを感じました。これはやっぱり、ああいう雑誌でしかやれないですよ。
『ふつうの軽音部』
(原作:クワハリ、作画:出内テツオ 集英社 少年ジャンプ+掲載)

佐藤:
読むのにかかった時間でいうと、この作品だけで全体の7割くらいの時間を使いました。2巻目くらいまでが特に、読むのが結構大変で。若い人たちの「共感」という要素が非常に大きい作品だと思います。要するに、ものすごく人間関係に臆病になっている。例えば私が実際に見ている大学生なんかでも、「3回デートしたら告白しないといけない」「OKをもらった相手には、他の異性と会う時は必ず事前に了承を得る」「断られた相手には二度と会ってはいけない」とか、すごく狭い人間関係の中で、みんなちょっとした差異を気にしている。そういうところが見事に描けているなと思いました。
長崎:
実は僕も、1巻は読むのがつらかったんですが、2巻以降ですごく面白いということがわかりました。4巻からは絵もとても上手くなって、読みづらさがなくなりました。ただ、これからもっと面白くなるような気もしています。
小山:
うちのスタッフが「この作品、面白いですよ」と言っていたし、「このマンガがすごい!」の2位になっているというので、さぞ面白いんだろうなと思って読み始めたんですよ。そうしたら、最近目が弱っていて、読むのに何日もかけちゃったことが原因かもしれないんだけど…あの、人物の区別があまりつかなくて。
秋本:
たしかに、キャラクターの区別がつきにくいんですよね。最近はそういうマンガが結構多いと思います。だから、今の若い子には見分けがつくんです。
長崎:
区別がつかないまま読み進めても、話はわかるんですよ。これ誰だっけ?と思いながら読んでいって、だんだんわかってくる(笑)。そこで立ち止まらないことが、この作品を読むうえで必要になってくるのかなとは思います。ハマると見分けがつくようになります。
秋本:
K-POPアイドルみたいだね、ハマると見分けがつくって(笑)。だから、ストーリーがつらくなってくると、読み進めるのがつらくなるかもしれないですね。今回「さいとう・たかを賞」だからということで、初めて「原作と作画」という視点でも見ましたけど、絵はシンプルさで騙されちゃうけど丁寧に仕上げていて、楽器の細かいところや弦の押さえ方なんかも正確に描いているし、実際にある曲を上手く使っているところも含めて、すごくリアルですよね。僕らに『父を焼く』が刺さるように、この中に出てくる歌で育った世代には、これがすごく刺さる。

小山:
昔、さいとう先生が小学館漫画賞の審査員をやっていた時ね、聞いた話ですけど、「少女マンガなんか、わしにはわからん」って言ってたって(笑)。その気持ちが少しわかる…。
長崎:
僕は、常に部数が第3位の少年誌にいたことがありまして。「ジャンプ」は少年誌として、ずっと勝ち続けているじゃないですか。…あ、すみません、ミスター「ジャンプ」の前で(笑)。
秋本:
いや、全然そんな(笑)。
長崎:
それで、ちょっと部数分けてくれてもいいんじゃないかなんて思っていたんですけど、僕、「ジャンプ」は高年齢化してきているとも思っていて。それを一つの滅びとしてですね、徐々にこう、落ちていってくれないかとも思っていたんです。でもこういう作品を見ると、やっぱり面白いんでね。「ジャンプ」恐るべし、というのをまた思い知らされたようで、少々腹が立つんですが(笑)、たしかにハマってしまう作品ではあります。何度も言っているように、後半ですごく絵が上手くなっているので、その上達の早さにも期待できると思います。

秋本:
「ジャンプ+」は今、すごく力を入れられていて、ライバルが「週刊少年ジャンプ」なんですよね。描き手の幅も広いから、今は「週刊少年ジャンプ」よりも「ジャンプ+」のほうが競争力が高いかもしれません。それで、この作品もアプリでの連載だから若い人のほうを狙っているし、面白いとも思うんですが、やはり「さいとう・たかを賞」ではないんじゃないかな…とは思っています。
今、「さいとう・たかを賞」が光を当てるべき作品とは
――改めて、ここからは作品を絞ってご検討いただければと思います。
佐藤:
今までのお話を踏まえると、『父を焼く』が一番評価が高いと思うので、結論としてそれでいいか、というところで議論を詰めていけるといいかもしれません。
秋本:
皆さんの意見をいろいろ聞いていて、たしかに今回賞を出すなら『父を焼く』かなと思いました。僕が一番に推していた『ガス灯野良犬探偵団』は、このペースで連載が続いていけば、どこかで何かしらの賞を取るとか、評価される機会はあると思うので。逆に言うと、『父を焼く』は、やはり、さいとう先生の賞じゃないと目をつけないような作品である気もします。こうした重いものも、さいとう先生はお好きではあったし。
長崎:
そう、『ガス灯』は来年も応募条件を満たしていますから。『父を焼く』が受賞することに異存ないんですが、一方で『ガス灯』に今、賞を出さないのも、少しもったいない気がしたんです。これからこの作品が、おそらく高く評価をされていく中で、最初に授ける意味もあるかなとも思ったので…難しいですね。二つの作品は芥川賞と直木賞の違いみたいな感じです。だから僕は2作って言いたくなっちゃうけど、強いて言えばやっぱり『父を焼く』です。落とせないですよ、こんなに優れた作品。
佐藤:
『父を焼く』はコミックスが出たのが2022年で、今年が最後の機会なんですね。それを踏まえるとなお、この作品に賞を与えたくなりますね。1人でも多くの人に触れてほしい。コミックの中でも小説やノンフィクションに匹敵するくらいの強いものがあって、しかもそれが原作者とマンガ家のコラボでできるんだと示すことで、分業体制のすぐれた点を訴えることにもなるんじゃないかと。
小山:
『ガス灯』が来年も出てきてくれることを期待して、僕も今回は『父を焼く』です。
――では満場一致ということで、第9回さいとう・たかを賞は『父を焼く』に決定させていただければと思います。ありがとうございました。
(了)
