ゴルゴ13名エピソードガイド 増刊40話「36000秒分の1」

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ゴルゴ13 名エピソードガイド 増刊40話「36000秒分の1」

 

 

非常に限定された狙撃の条件を満たすためにゴルゴは丸一日もの間、筋肉を弛緩させる薬の開発をスポーツ医学者のデグナーに依頼する。デグナーがかつて東ドイツで金メダルを獲るためのドーピング研究に関わっていたからだ。

 

 

ドーピングという言葉が一般的に広まったのはやはり1988年ソウルオリンピックでの男子陸上100mのベン・ジョンソンによるものだろう。カール・ルイスを破っての世界新記録に世界は沸いたが、直後のドーピング検査で陽性反応が出て失格となった。この事件でスポーツ界のドーピング蔓延は知られることとなったが、もちろんこれは国際情勢と無縁ではない。

 

 

例えば、1990年に東西ドイツが統一されたことで、70年代から80年代にかけて旧東ドイツでも国家主導で多くの選手がドーピング漬けにされていた事実が明るみになる。社会主義体制の威信を高めるためにスポーツは利用されていたのだ。1968年メキシコ大会から88年ソウル大会までで、東ドイツがオリンピックで獲得したメダルは153個、これはなんと西ドイツの約3倍だ。逆に言うと、いかに東ドイツのドーピング研究が進んでいたかの証明でもある。

 

 

ゴルゴが東ドイツ出身のデグナーに目をつけたのはそういう事実を踏まえてのことなのだ。統一された後の元東ドイツ人が経済的に困窮していった悲哀までも描かれている。

 

 

また、標的とされたテロリストのカルロンテにも実在のモデルがいる。1973年から1984年にかけて14件のテロ事件で83人を殺害したベネズエラの国際テロリスト、イリイチ・ラミレス・サンチェスだ。“カルロス・ザ・ジャッカル”という異名で知られ、劇中で語られているとおり1983年12月31日 マルセイユからパリに向かうTGVの車内で爆弾テロを起こし2名を死亡させている。スーダンで逮捕され、パリのサンテ刑務所に移送されたのが1994年8月。このエピソードが描かれたのが1994年11月なので、最新かつ正確な情報を元に描かれていることにいまさらながら驚いてしまう。ちなみにカルロスは終身刑となるが現在もサンテ刑務所に収監されている。

 

 

 

 

Writer

今秀生